遮断器の点検時に検査機器から出たデータや数値だけをそのまま鵜呑みにするのではなく、現象、原理、メカニズム、各種機器の機能・構造を把握して点検時の注意ポイントをイメージしながら点検することが、点検・診断の品質を向上させ、電気設備を安全かつ信頼性を維持することができる。 ここでは、例として遮断器の点検時のポイントを紹介する。
1. 放電について
- 原子構造上、最外殻に電子が存在し、陽子(核)の周りを回っている。
- その状態に光エネルギー、衝突エネルギー、電界エネルギーなど外部エネルギーが加わると、最外殻の電子は、起動周期から逸脱し、自由電子になる。
- 自由電子がすぐに元の最外殻に戻り、安定した原子構造に戻ることを励起現象といい、戻らずに自由電子のまま空間に存在することを電離現象という。
- ここでは、電界エネルギーによるフリー電子となることを放電開始現象と理解する。
- 電界(電圧)がかかった空間に電極から電子が放出される。
- 電子は、その空間の分子(酸素や窒素など)と衝突しながら、その分子から更に自由電子を放出させ、指数関数的に電子の数が増え、正極側の電極へ移動する。
- 増大した電子が正極に到達し、バチっ!!って火花が発生することを放電という。
- 電子が、他の分子(粒子)に衝突するまでの距離を「電子の平均自由行程」という。
2. 放電理論:タウンゼント氏、ミーク氏、レーザー氏
- タウンゼント氏は、上記、第1項 ⑤~⑧ を放電メカニズムとして提唱した。 「タウンゼントの放電理論」
- その後、ミーク氏やレーザー氏は、タウンゼントの放電理論では、どうしても陰極から放出された電子が、陽極に到達するまでの時間が説明できないことに気が付いた。 実際はもっと早いはず。
- そこで、研究を重ね電子なだれ(ストリーマー)の存在を提唱。写真撮影も成功。
- 彼ら3人の放電研究が、現在の放電理論の基礎となっている。
3. 各遮断器の原理
OCB
短絡放電中の無数の電子やイオン(陽子)などは、物性的に安定した油の中で発生させ、電子の平均自由行程も短く、電極間の電子を放出しにくくする。 ⇒ オイルの性状管理が当該設備を維持管理する時に重要なポイント
VCB
真空なので、電子の平均自由行程を極端に長くし、電子と各種粒子の衝突(衝突エネルギーによる電離現象)を緩和させ、放電を抑制させる構造。 ⇒ 真空度を維持することがVCBの機能維持に重要
ACB
VCBとは逆に電子の平均自由行程を極端に短い圧縮空気を電極間に発生しているアークに吹付け消弧させる構造。 ⇒ 圧縮空気の維持管理が、直接ACBの機能維持に直結する。
GCB
SF6ガスは、電気的化学的に性状が安定しており、単体ガスではもっとも電子付着係数が高いガスである。即ち、放電で発生した電子をSF6分子が付着させ、放電を発生させない構造を利用した遮断器である。ただし、平等電界下では高い絶縁性能を有するが、不平等電界下では、絶縁性能を著しく低下させる特徴がある。 ⇒ SF6ガスの内圧管理
* SF6ガスを用いているGISについて、設備導入時に現地組立が発生する場合は、塵埃などのGIS内への侵入を最大限防ぐ必要がある。(不平等電界となり、絶縁耐力(性能)を低下させる。) 近年は、積極的に定期点検におけるGISの現地開放点検の実績は減少していると思うが、万一実施する場合は、導入時と同様に塵埃に対して細心の注意を払う必要がある。
法廷資格受験時には、詳細な数値や公式を覚える必要はあるが、まずは概念(イメージ)を正しく把握した上で、各種電気設備の点検、巡回、電気設備の運用(運転)、そして設計につなげてほしい。
(産業用電気設備関係の方からの回答です)