質疑応答〔2020-0015 アークフラッシュ対策とは、どのようなことでしょうか?〕で、アークフラッシュ対策の必要性および2020年頃の日本の状況について説明して頂いていますが、その後の日本のアークフラッシュアセスメントの動向について、もう少し詳しく説明して下さい。
日本のアークフラッシュアセスメントの動向について、2023年11月22日に開催した〔第31回 ETAP ユーザ会〕で説明した資料があります。 ① 電気事故〔感電事故、電気火災事故、アークフラッシュ事故、② アークフラッシュ事故の原因、③ 日本でのアークフラッシュ事故の発生状況、④ アークフラッシュリスクアセスメント、⑤ アークフラッシュ関連法規 などについて説明していますので紹介します。
1. 電気事故
電気事故を整理すると、① 感電事故 ② 電気火災事故 ③ アークフラッシュ事故 に分けられます。
- 感電事故〔 Note 1〕とは、電気製品や電気設備の不適切な使用、電気工事において何かの原因で人体または作業機械が送配電線に接触すること、漏電の発生、および自然災害である落雷等の要因によって、人体に電流が流れ障害を受けることです。
- 電気火災事故とは、電気機器やケーブル類の過負荷や漏電による発熱、発火による火災事故であり、人や物に被害が生じる事故のことです。 電気火災事故には、感電事故、火傷事故、建物や家財の損失事故などが含まれます。
- アークフラッシュ事故〔Note 2〕とは、気中、電気回路や電気機器内で短絡事故などが生じた場合に、導体間に大電流が連続的に流れることにより生じる〔まぶしい閃光と強烈な熱〕による事故のことです。 このアークフラッシュ事故が生じると、電気設備の損傷だけでなく、① 感電 ② 爆発 ③ 破片の飛散 ④ 人間を吹き飛ばす爆風 ⑤ 聴覚にダメージを与える音波 ➅ 失明の危険のある閃光 ⑦ 発火源となるプラズマおよび熱 などにより、生死にかかわるようような重大な〔労働災害〕が生じます。
2. アークフラッシュ事故の原因
アークフラッシュ事故は、強い光、熱、音、圧力の形で大量のエネルギーを放出します。 その要因として、① 技術要因〔設計においてアークフラッシュリスクが考慮されていない(アセスメント未実施)〕、② 管理要因〔機器類の故障、老巧化、メンテナンス不良、AFラベル無し、作業計画(作業手順)の不備など〕、③ 人的要因〔AF教育、AF危険予知の不十分によるヒューマンエラー、作業指示とコミュニケーション不足、PPE(保護具)未着用など〕が考えられます。(ここで、AFは Arc Flash : アークフラッシュの略です)
3. 日本でのアークフラッシュ事故の発生状況
独立法人製品評価技術基盤機構(NITE : National Institute of Technology and Evaluation)のWeb Site https://www.nite.go.jp/gcet/tso/shohopub/search から〔アーク、死傷〕で検索すると、表1 のように〔2020年~2023年に発生した12件のアークフラッシュ関連事故〕がアップロードされています。 最近では国内でも、製薬・化学、半導体、データセンター、再生可能エネルギーなどのグローバル企業から、アークフラッシュリスクアセスメントの実施要請(ニーズ)が増えており、日本でもアークフラッシュリスクアセスメントが必須の要件になりつつあります。
4. アークフラッシュリスクアセスメントとは
アークフラッシュリスクアセスメントの定義は、〔① 電力系統システムにおける様々な運用条件でのアークフラッシュ事故を想定し、人身に及ぼすアークフラッシュ事故エネルギーおよびリスク境界を適用規格に基づき、正しいデータ、条件にて計算する 〔Note 3〕、② その計算結果に基づき、人身事故から作業員をまもるための PPE(保護具)を規定する(作業者へのPPE着用規定と現場へのラベル表示する)と共に、③ 電気安全衛生計画、作業者教育の指針とする〕 ことと言えます。(ここで、PPEはPersonal Protective Equipmentの略です)
このアセスメントの結果として、事故エネルギーを求め、図1 のように〔Arc Flash &Shock Approach Boundaries〕を求め、図2 のように〔Arc Flash PPE Category〕を規定します。 アークフラッシュラベルの例およびアークフラッシュ防護服(PPE)については、図3 を参照して下さい。(PPEの図は、アゼアス株式会社殿からのご提供です)
5. アークフラッシュ関連規格
日本では原則、以下の規格に基づきアークフラッシュスタディを実施します。 これらの規格は、アークフラッシュリスクアセスメントに携わる関係者が一読すべき規格と言えます。
- IEEE-1584 Guide for Performing Arc-Flash Hazard Calculations
- NFPA-70E Standard for Electrical Safety in the Workplace
- IEC-60909 Short-circuit currents in three-phase a.c. systems
その他のアークフラッシュ関連の規格や法規については、質疑応答〔2020-0016 アークフラッシュ計算手法、規格、および便利なツール〕および〔2024-0280 アークフラッシュ対応の配電盤(国内規格と国際規格)〕を参照して下さい。 なお、安全に関する規格は日々改訂されるいますので、これらの情報は現時点における情報として参考にして頂き、実際の実務にあたっては最新の情報を確認して進めて下さい。
(株式会社エルテクス設計 三井章人)
〔事務局より〕
感電事故、アークフラッシュ事故、アークフラッシュ計算手法については、下記の〔質疑応答〕をご参照下さい。
Note〔1〕 感電事故 については、〔2023-0240 感電と感電対策〕および〔2024-0281 (現場とトラブル) 感電による人体の保護 (国内規格と国際規格)〕
Note〔2〕 アークフラッシュ事故 については、〔2020-0015 アークフラッシュ対策とは、どのようなことでしょうか?〕
Note〔3〕 アークフラッシュ計算手法 については、〔2020-0016 アークフラッシュ計算手法、規格、および便利なツール〕の 関連資料 AF-I EEE1584-UG25.pdf、〔2020-0017 アークフラッシュ計算結果の評価方法と対応策〕 および〔2024-0278 ETAPによるアークフラッシュ解析実例〕
(電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)