系統解析ツールを活用し、過渡安定度等の検討に取り組みたいのですが、同期機の諸定数(Parameters)についてご指導お願いします。
国内設備では系統アクセス手続きで用いる様式から、電力広域的運営推進機関の「接続検討申込書【特別高圧】」の「発電機仕様(同期機)」https://www.occto.or.jp/access/kentou/youshiki.html#kentou に記載されている諸定数(Xd,Xd’,他)は得られるのですが、ここには Ra(電機子巻線抵抗)が書かれいないので、解析ツールに入力できません。 また、過去にメーカーから入手した資料には、回転子が円筒形で塊状界磁であるにも関わらず、Xq’ や、これに関する時定数も書かれていません。対応方法についてご指導をお願いします。
1.同期機回転子の構造と等価回路
図1 に同期発電機回転子の構造概要を、図2 に等価回路と等価回路定数を示します。 図2 は名著として名高い参考文献 [1] “Power System Stability and Control” (5項参照)から引用しています。
Question での問いについて、Ra は国産の過渡安定度解析ツールであるY法(電力中央研究所、CPAT)では入力しないため、国内の様式には記載されないと考えています。また、Xq’ についても国内の慣習に影響されているようです。 EMTP 等の代表的なツールでは Ra を入力しますが、海外業務が主となっている昨今の産業界の状況からは不便さを感じます。解析ツールが要求する諸定数を入力しなければ、ツールが動作しない場合が想定され、また、誤った数値を使用すると解析結果の信憑性が問われることになります。以下、等価回路と回転子の構造から解説します。
2.Ra(電機子巻線抵抗)について
Ra は Ta(電機子時定数)と X2(逆相リアクタンス)から求めることができます。 ωo は同期角速度(2πf)です。
3.q軸回路の制動(ダンパ)巻線について
図2 の諸定数の添字は、f は界磁巻線を、1と2 は制動巻線を表します。(添字の表現は統一されていないようですのでご留意ください。) q軸等価回路には2本の制動巻線が装備されています。一方、国内の多くの文献では円筒形回転子であっても、q軸の制動巻線は1本の前提で説明されています。制動巻線が1本であれば、Xq’(横軸過渡リアクタンス)は存在しないことになります。なお、d軸回路の Xpl は制動巻線と界磁巻線間のリアクタンスで、通常は考慮されない場合が多いです。
(1) 円筒形(Cylindrical rotor, Round rotor)塊状回転子の場合
図1(b) より、円筒形塊状回転子の場合、鉄心(積層形ではない)表面が制動巻線回路を構成している構造が一般的で、くさび(wedge)と保持リングを合わせて回路が構成されている例もあります。よって、このような構造の場合は、渦電流の経路から制動巻線が1本だけとは言えない構造であることがわかります。また、過去には、国内メーカーは Xq´、Tq´(横軸短絡過渡時定数)、Tqo´(横軸開路時定数)等は、社内試験でデータを得ているにも関わらず、顧客の要求がない限り提示しない場合が多かったことも事実です。
(2) 突極(Salient pole)構造の回転子の場合
参考文献 [1] には次の記述があります。積層突極機の場合、制動巻線は q軸の唯一の回路です。したがって、適用可能な q軸回路は一つだけです。よって、下式より、過渡パラメータ Xq’,Tq’,Tqo’ は適用できません。
4.同期機諸定数の代表値について
同期機の諸定数が不明な場合は、機種毎の代表値を使用して試算する手段があります。 参考文献 [1] には、Parameter の代表値として 表1 の値が紹介されています。
その他、国内の文献では、下記に同期機諸定数の代表値が詳しく紹介されています。ただし、円筒形回転子機であっても Xq’ は記載されていません。
(1) 電気学会技術報告第763号「1980年以降に製作された大容量同期機諸定数の調査結果(1980年~1997年製作)」, (2) 電気学会技術報告第798号「同期機諸定数の適用技術」
参考文献:
[1] EPRI Power System Engineering Series, P. KUNDER著, “Power System Stability and Control”, McGraw-Hill, Inc., ISBN-13: 978-0-07-035958-1、[2]「電気回路ハンドブック」, 朝倉書店, ISBN978-4-254-22061-2
(旭化成株式会社 加戸良英)