低圧三相誘導電動機の巻線の劣化診断技術について教えて下さい。以下の400V級のインバータ駆動電動機が運転中に地絡発生しました。(写真1参照) 今後の対策として劣化診断手法について検討しており、この度ご質問致しました。
<電動機仕様>
極数:6P、保護:IP44、容量:160kW、電圧:360V、周波数:58.4Hz、電流:319A、回転数:1150rpm、絶縁種:F、製造年:2003年、負荷:押出機、運転様式:連続運転、設置後21年経過しております。
状況として軸受の手回し良好で劣化した様子は無く、突然、固定子のコイルがレアショートして地絡に至りました。低圧電動機の巻線の健全性調査のための診断技術など、最近の動向についてご教示頂けたら幸いです。なお、弊社内では、低圧に関しては電流診断・無線振動計の導入や、高圧に関してはメーカーと共同研究しております。
貴重なトラブル事例に関するご投稿ですので、経験豊富な産業用電気設備のご担当者からの貴重な回答と、一般的な情報の両方について記載します。
1. 産業用電気設備の方からの回答
低圧巻線回路のレアショートを検出する方法にはサージ試験(サージ比較試験)があります。例えば、発電機回転子巻線(低圧)の絶縁劣化診断方法として界磁巻線A極と中性点、B極と中性点にサージ入力するサージコンパルソン試験が行われています。地絡事故になる前の軽微な界磁巻線のレアショートを見つけることができます。また、高周波数によるインピーダンス試験も行われています。中・小型の低圧回転機で多く使用されるマルチターンコイルや乱巻きコイルでは、素線に施された絶縁が劣化するとターンショートやレアショートに至り、短絡した回路に多くの電流が流れ、過熱や機械的なアンバランスが生じるだけでなく、放置すると絶縁破壊に至ります。このようなターン間絶縁の劣化を診断する技術として、(1) サージ試験(サージ比較試験)があります。UVW端子からサージ入力してサージ波形の減衰を比較する方法です。 もう一つは、(2) インパルスを印加して発生する部分放電を測定し劣化を評価する方法です。
(1) サージ試験(サージ比較試験)方法
図1、図2、図3 に示すように、巻線端子にサージ電圧(インパルス電圧)を印加して、マスター波形と比較する。 各相の減衰波形を比較して異常の有無を評価します。
(2) インパルスを印加して発生する部分放電を測定する方法
図4 および 図5 に示すようにインパルスを印加した際に発生する部分放電を測定し劣化を評価する方法です。この方法は劣化の初期状態から検出できる特徴を持っていて国際規格も制定されています。 表1 に国際規格の印加電圧の例を示しますが、この電圧で部分放電が発生した場合、劣化が進行していると評価します。
参考文献:
診断方法 (1) および (2) について【出典】は下記の文献 [1]~[4] による。〔文責:電気科学技術アカデミー 末長清佳〕
[1] 技術伝承を目的とした電力設備の絶縁診断技術調査専門委員会:「電力機器・設備の絶縁診断技術」、オーム社 (2015)
[2] John Wilson, “CURRENT STATE OF SURGE TESTINGINDUCTION MACHINES”, Proceedings of Iris Rotating Machine Conference (2003)
[3] Megger, “Baker DX Series Static Motor Analyzers” (2018) http://www.ecginc.co.jp/download/Megger_Baker_DX_brochure_EN_A4_v1.0_online.pdf (2024年8月23日閲覧)
[4] Techimp, “Design and qualification tests of motors to be used under power electronic waveforms. IEC 60034-18-41 / 42” (2018)
今回の御社のトラブルは口出し線付近の巻線トラブルではないのでインバータ(PWM)サージ電圧によるものでは無く、経年21年連続運転により絶縁の弱い部分がレアショートして地絡に至ったものと推定します。当該電動機フィーダのみ地絡トリップ出来ておりインバータ駆動系統における地絡保護も上手く設計できています。御社で進めている電流診断・無線振動計の予知保全導入についても事故防止に有効です。 質疑応答 2024-0344〔オンライン診断スマート保全〕を参考にして下さい。電動機電流のFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)解析を行い側帯波の大きさから電動機のバー切れを診断する技術があります。MCSA (Motor Current Signature Analysis) と言います。また、電流のFFT解析によりポンプ、ファン等の設備(トルク)異常も診断できます。
2. 一般的な情報
地絡発生は非常に危険な状況ですので、適切な対策が必要です。劣化診断手法については、一般的に、以下のような方法があります。
- 定期的な点検: 運転中に地絡が発生する前に、電動機やインバータの劣化を早期に発見するために、定期的な点検を行うことが重要です。
- 絶縁抵抗の測定: インバータや電動機の絶縁抵抗を測定し、絶縁劣化を確認する。
- 電圧・電流のモニタリング: 運転中の電圧や電流をモニタリングし、異常な変動を検出する。
- 温度モニタリング: 電動機やインバータの温度をモニタリングし、過熱を防ぐための対策を講じる。
- 絶縁耐力試験: 定期的に絶縁耐力試験を行い、絶縁材料の劣化を確認する。
これらの手法を組み合わせて、劣化を早期に発見し、地絡発生を防ぐことができます。安全対策をしっかりと行うことが大切です。 低圧三相誘導電動機の固定子巻線劣化診断技術として、上記の一般的な劣化診断手法に加えて、下記のような方法があります。以下に主要な技術を紹介します:
- 電気的診断: 巻線の抵抗やインピーダンスを測定し、異常を検出する。巻線の断線や短絡を確認するために、オームメーターやインピーダンス計を使用する。
- 磁気探傷(MPT): 磁場を利用して、巻線内の金属欠陥や断線を検出する。この方法は、非破壊検査として広く使用されています。
- 音響探傷(UT): 超音波を使用して、巻線内の欠陥や断線を検出する。音響波が欠陥部分で反射することを利用して、欠陥の位置や大きさを特定します。
- 熱画像処理(IR): 赤外線カメラを使用して、巻線の温度分布を観察する。異常な温度上昇がある場合、巻線の劣化や断線を示唆することがあります。
- 電磁放射(EM): 巻線の周囲に電磁放射を検出することで、断線や短絡を検出する。この方法は、特に巻線が隠れている場合に有効です。
これらの技術を組み合わせることで、低圧三相誘導電動機の固定子巻線の劣化を効果的に診断することができます。どの方法が最適かは、具体的な状況や診断の目的によって検討して下さい。
(産業用電気設備関係の方からの回答です)