化学工場や製鉄所などの産業設備では数千台の電動機が連続運転しています。このような設備では瞬時電圧降下(瞬低)が生じた場合にも設備の運転を継続し生産を維持することが必須です。
このような観点から多数の誘導電動機を有する産業設備において有効な瞬低対策について説明して下さい。瞬低対策に関する実施例についても紹介して下さい。
誘導電動機に対する瞬低対策として、最も有効な方法は、瞬低が継続している間「電動機用の遮断器や電磁接触器が閉じたままの状態を保持する」ことです。遮断器や電磁接触器が閉じていれば、系統側と電動機端子側の電圧の位相が一致している(ずれることがない)ので、電圧回復時に大きな突入電流が流れることが無く、電動機はその始動電流特性に従って、減速した状態の速度から全負荷速度まで再加速して全負荷運転に復帰します。
これまでの瞬低解析の経験から、「電動機用の遮断器や電磁接触器が閉じたままの状態を保持する」という条件で計算すると、電圧低下20%、継続時間1秒程度の瞬低であれば、系統および自家用発電機などの運転に影響を与えることなく、運転継続可能という結果を得ています。もちろん、実際の系統ごとに影響度が異なって来ますので、個々のケースごとに、実際のデータを基に具体的な検討が必要です。
遮断器や電磁接触器が開いてしまうと、系統側と電動機端子側の電圧の位相にずれが生じ、再投入時に場合によっては電動機定格電流の20倍程度の突入電流 (Inrush Current) が流れ、機器に損傷を与える、系統に大きな電圧変動(電圧降下)を引き起こし、電動機の始動渋滞や主系統の過電流継電器が動作などにより電動機群が一斉停止し、場合によってはプラントや工場の停止に至るようなトラブルに至ります。
そこで、対策として「電動機用の遮断器や電磁接触器が閉じたままの状態を保持」することが有効ですが、現実的に可能でしょうか? ご存じのように、高圧電動機用の遮断器は投入コイルと引き外しコイルを持っていて、瞬低が生じても遮断器が機構的に開かない構造になっています。コンビネーションスタータの場合は、ヒューズと電磁接触器の組み合わせになっていますが、制御電源を直流電源にするなどして瞬低が生じても電磁接触器が開かない方式にすることが可能です。ところが、低圧用の電磁接触器の場合はどうでしょうか? 一般の電磁接触器は、瞬低の継続時間0.01秒、電圧低下50%を超えると離落してしまい電動機停止に至ります。
このような産業用の状況を考慮して、瞬低対策検討の手順(第1項)および 瞬時電圧低下対策検討の実施例(第2項)について検討してみます。
1. 瞬低対策検討の手順
化学工場や製鉄所などの産業設備における瞬時電圧低下対策の検討手順をまとめてみます。
① 高圧電動機および低圧電動機ごとに、遮断器および電磁接触器の構造および動作について確認する。例えば、高圧用の遮断器は瞬低時にCloseを維持、低圧用の電磁接触器は瞬低時に離落してOpenに至るなどについて調査し確認する。
② 高圧電動機(負荷)を「 瞬低時に停止する負荷 b. 瞬低時に再始動する負荷」に分類する。aの負荷につては、必要に応じて瞬低時に遮断器をOpen するようインターロックを設ける。
③ 低圧電動機(負荷)を「 瞬低時に停止する負荷 b. 電圧回復後直ちに(電圧回復後 0秒)再始動する負荷 c. 電圧回復後に順序再始動する負荷(電圧回復後 5秒、10秒 … など)」に分類する。この負荷の分類にあたっては、プロセスおよび機械エンジニアと慎重な検討が必要である。bの電圧回復後に直ちに再始動する負荷としては、配線用遮断器で配電しているフィーダなども含まれる。誘導電動機で電圧回復後直ちに再始動する場合、出来ればラッチ式のものなど瞬低時に離落することの無い方式とすると良い。
④ 再始動順序ごとのグループ分けができたら、グループごとに電動機群としての解析ソフトウェアへの入力方法について検討する。電動機の縮約方法については、質問番号2021-0091「誘導電動機の縮約方法」をご参照下さい。
⑤ データの入力が終わって、瞬低再始動解析の結果が出てきました。多分「 電動機端子の電圧降下が大きくて、電動機が再始動できない b. 配電盤母線の電圧降下が大きくて不足電圧継電器が動作してしまう c. 電動機群の一斉始動電流が大きくて変圧器主回路の過電流継電器が動作してしまう d. 発電機の電圧および周波数の動揺が大きく安定度を維持できない e. 受電系統に悪影響を与える」などの、諸々の問題が生じると思います。
➅ ここからが「対応策の検討」になります。上記のような諸々な問題をクリアする方法として、下記のような対応策が考えられます。問題解決のための手法の一つとして、ご参考にして下さい。
a. 低圧電動機の電磁接触器も瞬低時に離落することの無いラッチ式のものに変える、あるいは制御電源としてバッテリーからの 直流電源、またはUPS(無停電電源装置)からの電源供給方式とする。このような方式は機能的には有効ですが、電磁接触器のサイズが大きくなる、高価であるなどの問題が生じます。また、バッテリーやUPSからの制御電源一括供給方式だと、制御電源を消失した場合、全ての電動機が同時に停止するという問題も生じます。 => このような方式を実際に採用するには経済的にも、電気室のスペースの確保的にも困難だと思いますが、シミュレーション上は自由に行えますので、どのような対応策が有効かを見つけるためにも、トライアンドエラーで、いろいろ試してみると良いと思います。
b. 次に、低圧電動機の場合、例えば100kW以上の電動機用の電磁接触器をラッチ式のものに変えた場合を検討してみましょう。意外と良い結果が得られるかもしれません。容量が大きい電動機の場合、MCCユニットの中にスペース的に余裕があり、コスト的のもあまり負担にならないと思います。 => この場合も、トライアンドエラーで、どの電動機用の電磁接触器をラッチ式のものにするのが最適化を検討してみましょう。
c. b の方法でもまだ安定度を維持できない、あるいはコスト的またはスペース的に採用できないという場合は、順序再始動方式について検討することになります。電動機再始動のモデリング手法については、質問番号2021-0093「電動機再始動のモデリング」をご参照下さい。 => この場合も、プロセスおよび機械エンジニアの協力を得て、再始動順序の順位付けや組み合わせの変更などを検討し、繰り返しトライアンドエラーでの検討です。再始動条件としてプロセスインターロックや、スチーム、空気、水、潤滑油などで装置自身が Accumulatorを持っている負荷は再始動を遅らせるなどの方法も有効です。
⑦ これでもまだ解決できないことも有ると思います。このような場合は「 系統のインピーダンスの見直し(簡単な例ではケーブルサイズを大きくする) b. 系統上の不安定な個所を見つけ出し系統運用を見直す c. あらかじめ停止せざるを得ない設備を決めておくなど負荷選択遮断についても検討する d. すぐにはできませんが発電設備を増強する」などの検討も必要になってきます。
2. 瞬時電圧低下対策検討の実施例
瞬時電圧低下対策検討の実施例として、第24回 ETAP ユーザー会のプレゼン資料「瞬低解析の実例紹介 (3) 瞬低後の電動機順序再始動の検討」を添付します。下記をクリックしてご覧になって下さい。
下記の瞬時電圧低下(瞬低)に関連するQ&A(質疑応答)もご参考にして下さい。
① 質問番号 2021-0092 :瞬時電圧低下(瞬低)現象のモデリング
② 質問番号 2021-0093 :電動機再始動のモデリング
③ 質問番号 2021-0097 :瞬時電圧低下とその対策
④ 質問番号 2021-0098 :誘導電動機を有する産業設備の瞬低対策
⑤ 質問番号 2021-0099 :瞬時電圧低下対策の実例(海外編)
➅ 質問番号 2021-0100 :瞬時電圧低下対策の実例(国内編)