質問番号2021-0099で瞬時電圧低下対策の実例(海外編)を紹介して頂きましたが、国内での解決策の実例がありましたらご紹介下さい。
もう10年ほど前になりますが、産業用製造設備を有するお客様より(日本を代表する大きな会社です)、瞬低対策について「a. 年に2~3回、落雷による瞬低があり、その度にある重要な設備が停止してしまう b. そこでその設備の高圧から低圧に降圧する変圧器バンクを1系列追加して(現在の3バンク系統を4バンク系統にして)負荷を分散し、電圧降下を軽減する対策をとりたい c. この方式でうまく行くかどうか検討して欲しい」という依頼を受けました。
直感的に私は「a. 変圧器バンクを1系列追加するとなると、スペース的に大丈夫か? b. ケーブルの接続変更作業が大変だろうな、届かなくなるケーブルも出て来るのではないか? c. お金もかかりそう、もっと良い方法があるのではないか?」という事を考えました。
そこで下記のような改善案を提案しました。考え方は、質問番号2021-0099 の「瞬時電圧低下対策の実例(海外編)」と同じです。
① この設備の場合、瞬低対策として既にお客様が瞬低回復後「+0秒、+5秒、+10秒、+15秒、+20秒以上」のようなグループ分けで順序再始動方式を講じていました。プロセスエンジニアとも相談して決めているとのことでしたので、この方式はこのままし、変更しないことにした。
② 各変圧器バンクの「+0秒」グループの電動機(瞬低回復と同時に再始動する電動機)の内、容量の大きい電動機の電磁接触器をラッチ式のタイプに変える。どの電磁接触器を変えれば良いかを、解析ツールで瞬低再始動解析(過渡安定度解析)を行い検討する。
③ 瞬低時間や残留電圧値、電磁接触器をラッチ式に変更する電動機を色々変えてケーススタディを行い、「容量が37kW以上の電動機用の電磁接触器をラッチ式に変えれば良い」という結論に至った。(機密保持上あまり詳しく書けませんので、ここでは37kW以上としておきます)
実際のモーターコントロールセンター (MCC) の改造作業はお客様自身で行いました。数年後にお客様にお会いした時に、その後の状況をお聞きしてみました。「その後何回か瞬低が起こったが、問題なく乗り切っている。社内の研究会で、この方式について発表する。」という事をお聞きしています。 このQ&Aコミュニティの主旨である「企業の垣根を越えて、電気エンジニア同士が協力して技術力を高め、問題点を共有し、解決するためのコミュニティを目指します」のように、このような解析の実例を広く他社の方にも開示して頂けると電気エンジニアの技術力向上に大きく寄与すると思うのですが、企業の壁はまだまだ高いようです。
瞬時電圧低下現象および対策について、下記のQ&A(質疑応答)もご参考にして下さい。
① 質問番号 2021-0092 :瞬時電圧低下(瞬低)現象のモデリング
② 質問番号 2021-0093 :電動機再始動のモデリング
③ 質問番号 2021-0097 :瞬時電圧低下とその対策
④ 質問番号 2021-0098 :誘導電動機を有する産業設備の瞬低対策
⑤ 質問番号 2021-0099 :瞬時電圧低下対策の実例(海外編)
➅ 質問番号 2021-0100 :瞬時電圧低下対策の実例(国内編)