質問番号2021-0105で、「日本の電気鉄道の電気方式(直流き電方式と交流き電方式)」について説明して頂きましたが、交流き電方式用の「交流き電用変電所」について、もう少し詳しく説明して下さい。
交流電気鉄道は、交流き電変電所で特別高圧あるいは超高圧の三相電力を受電し、スコット結線変圧器やルーフ・デルタ結線変圧器で2組の単相電力に変換して、き電用遮断器を通して2方面の電車線路に電力を供給しています。 ここでは、三相電源と電車負荷、スコット結線変圧器やルーフ・デルタ結線変圧器、変電所のき電電圧について説明します。
1. 三相電源と電車負荷
交流電気鉄道は、電力会社の三相電力を受電して、単相負荷である電気車に電力を供給しています。電力会社の三相系統から大容量の単相電力を使用すると、電源側に不平衡や電圧変動が発生して、回転機が過熱したり、照明のチラツキが発生します。このため、電気設備技術基準第55条および解釈第260条で、2時間平均負荷で3%以内としています。また、電圧変動は電力会社で許容値が異なります。
また、電気事業者にとって電気料金は三相負荷が基本であり、三相の設備から大容量の単相負荷をとれば、設備利用率が低下するため、割増の単相料金を設定することになります。
このため、短絡容量の大きい三相電源から受電するとともに、三相二相変換変圧器を用いて、三相電力を90°位相差の2組の単相電力に変換し、2系統のき電回路へき電して、電源への影響を小さくしています。三相二相変換変圧器には特別高圧である66kV~154kV 受電用のスコット(Scott)結線変圧器と、超高圧である187~275kV受電用のルーフ・デルタ (roof delta) 結線変圧器があります。
2. スコット結線変圧器
図1はスコット結線変圧器であり、三相電力を横方向のM座と縦方向のT座の2系統に変換しており、両座の負荷電力が等しければ三相側で平衡します。また、変電所前では、異相セクションで両座の電圧が突合せになります。異相セクションでは、在来線は8mの絶縁セクション(デッドセクション、図2)を用いて、電気車はノッチオフで通過します。新幹線は約1000~1500mのニュートラルセクションを設けて、電車の進行に従って切替開閉器で電力を0.3秒の無電圧時間で切替えて通過しています。
3. ルーフ・デルタ結線変圧器
新幹線は大電力を必要とするため、多くの変電所は電源の強力な超高圧系統から受電しています。
超高圧系統は中性点を直接接地した有効接地系統です。このため、受電側はY結線にして、中性点を直接接地します。最初の新幹線である山陽新幹線では、二次側はΔ結線を2個と昇圧変圧器を組み合わせた変形ウッドブリッジ結線変圧器を用いていました。その後、巻線を簡単にした、ルーフ・デルタ結線が開発され、2010年に東北新幹線(八戸以北)で実用化されました。横が屋根形巻線、縦がΔ巻線なので、ルーフ・デルタ結線と称しています。
き電側はA座とB座があり、三相平衡化条件はスコット結線変圧器と同様です。
図3は、ルーフ・デルタ結線変圧器の結線と外観です。変電所の前の電車線は、切替セクションになっています。
4. 変電所のき電電圧
変電所から電車線への、き電電圧(最高電圧)を表1に示します。
き電方式には単巻変圧器 (AT:Auto-Transformer) を用いたATき電方式と、吸上変圧器(BT:Booster Transformer)を用いたBTき電方式があり、電圧が異なります。また、東京地区の新幹線には、狭隘な箇所に適した同軸ケーブルき電方式があります。
(持永芳文 記)