弊社内で、6.6㎸電動機端子箱内の地絡が発生し、該当フィーダが 67 でトリップ(健全動作)したのですが、全く別の電気室でも 67 のトリップが同時刻に発生しました(下図参照)。
当初、EVT [3] の極性間違いによるもらい事故を疑い調査したのですが結線は問題ありませんでした。 質疑応答 2021-0117 高圧系統の非接地方式による保護リレーの設計 において、EVT多重接地 [1] による不要動作の事例があることが記載されていますが、具体的にどのようなトラブルでしょうか?
今回不要動作が発生した電気室は、上図のように地絡発生した電動機に電源を供給する電気室と同じ系統に接続され、双方の電気室にEVT を設けていますが、アースが直接接続されてしまっている可能性があります。 以上の状況より、離れた EVT 間での循環電流(第3次高調波)による誤動作の可能性を疑っているのですがメカニズムの解明に苦慮しており、このような事例などありましたご教示下さい。
(産業用電気設備関係の方からの質問です)
A社の方からの回答
1. 現象
(1) 弊社でも 6.6kV 系統フィーダの方向地絡継電器 67 が、不要動作にてトリップした質問者と同じような経験があります。 弊社の場合、6.6kV 系統の配電変圧器(△‐△巻線)が非接地方式(Ig=380mA の高抵抗接地と等価)で、6.6kV 母線の EVT (Y‐Y‐ブロークンΔの V0) とフィーダの ZCT(200/1.5mAのI0)を使って方向地絡継電器 67 で V0 と微弱 I0 で地絡保護しています。 ブロークンΔには地絡過電圧継電器 OVG (64=V0) があります(下図の 「GPT(EVT)による接地」 参照)。 不要動作した推定原因ですが、Question の系統図のように、配電変圧器の下位に電気室があり、それぞれの電気室で EVT 接地しており(多重接地)、電圧 6.6kV で対地静電容量の大きいケーブル敷設系統の場合、前記のように微弱な mA オーダーの地絡電流を検出しているため、各ケーブルの対地静電容量による充電電流の方向性が定まらなくなり 67 が不要動作すると考えています。
(2) 非接地系の間欠地絡 [2] による健全相電位上昇の影響もあると推定しています。
2. 対策
(1) 化学工場や石油工場では防火対策を考慮して意図的に非接地設計するところがあります。 非接地方式でなくても良い場合は、6.6kV 配電用変圧器巻線は Δ-Δ のまま、かつ、各フィーダの ZCT も 200/1.5mA のままとし、10~30A 高抵抗接地方式にする方法が有効です。 具体的には、下図の「GTRによる接地」方式(10~30A高抵抗接地方式)とします。 GTR を新たに設置することが困難な場合は、下図の「所内電源用変圧器を兼用」する方式(例えば、所内電源変圧器 Y-Δ(200V-100V)の 6.6kV のY巻線を接地するように改造する)が一番安価です。
(2) 6.6kV 配電用変圧器の更新時に Δ-Δ を Δ-Y に変更する方法もありますが、他の系統との無停電ループ切替えができなくなるなどが生じることがありますので前記の方法が得策です。 B社の方からの回答
1. 現象
(1) EVT 接地方式による地絡保護システム(例:64&67)は、非接地系となります。 一方で EVT は回路変換(等価回路)すると、下図のように中性点抵抗 Rn による高抵抗接地と等価といえます。
(2) 例えば Question の系統図のように、1つの高圧配電系統内に多数の EVT 接地方式を採用している場合 多重接地 [1] となり、かつ高圧系統で対地静電容量の大きいケーブル敷設されている場合、地絡発生時に地絡電流にケーブルの充電電流が重畳され、各 EVT の接地点へのこれらの電流の方向性が定まらなくなり、健全な系統の地絡保護継電器67が不要動作することがあり ます。
2. 対策
(1) 弊社では、EVT の設置数量制限の計算を行い、EVT の設置数に制限を設けていました。 ただこの場合、高圧ケーブルの数量と長さ、電動機駆動用のPWMインバータの有無、高圧配電系統に高調波歪の有無などによって影響度が変わってきますので、それぞれのケースに応じた対応が必要です。
(2) また弊社では、地絡検出に関して EVT の方が信頼性が高いと考えているので、重要な電気室のみに EVT を設置し、通常の電気室には ZPD [4] を設置して地絡検出している。
C 社の方からの回答
1. 現象
(1) 弊社でも EVT 接地方式による地絡保護システムにおいて不要動作のトラブルを経験していますが、主要な変電所では GTR 接地方式を採用していることもあり、弊社のトラブルの場合は EVT 多重接地が原因とは考えておりません。 EVT 多重接地は多くの現場で行われており、これが障害をもたらすとは考えておりません。
(2) ただし、ケーブル等で 間欠地絡 [2] が発生すると,特定のメーカーの地絡方向継電器は EVT 接地がある系統では不要動作を起こし易くなります。 弊社のトラブルは継電器の演算アルゴリズムの問題と考えております。 国内メーカー数社にこの現象をお知らせし、実際にケーブル地絡を発生させる実験を行い保護継電器の動作の検証を行いました。 間欠地絡 [2] と 実際にケーブル地絡を発生させる実験 については、2023-0236 (現場とトラブル)EVT接地がある系統での地絡方向継電器の不要動作 をご参照下さい。
2. 対策
(1) 対策としては、ケーブルによる充電電流などを加味した地絡電流計算をきちんと行って、地絡方向継電器67を正しく設定することが必要です。
(2) Question の系統図の主変電所の 6.6kV 主母線に GTR [5] を設置して10A程度の接地系とすることも有効な対策と考えます。
(3) ケーブルの 間欠地絡 [2] による地絡方向継電器不要動作、および地絡方向継電器の演算アルゴリズムの問題については各メーカーにお問い合わせ下さい。
(産業用電気設備関係の方からの回答です)
用語の説明 :
[1] 多重接地 : ご質問の系統図のように、1つの配電変圧器の下位にいくつかの電気室があり、それぞれの電気室で EVT 接地をしている接地方式をここでは多重接地と言います。
[2] 間欠地絡 : 中性点非接地方式で発生する異常現象の一つで、1線地絡事故が起こったとき、地絡点のアーク電流が消弧と再点弧を交互に繰り返し、健全相に異常振動電圧が発生する現象をいう。
[3] EVT : 接地形計器用変圧器、Earthed Voltage Transformer の略
[4] ZPD : 零相電圧検出装置、Zero-Phase Potential Device の略
EVT および ZPD の基本、検出原理、用途、使い分けによる違い、組合わせる継電器による違いなどについて、 https://jinden-tool.com/zpd-evt-difference/ 「電気屋の気まぐれ忘備録」 に分かり易い説明があります。 まとめとして、『① ZPD も EVT も零相電圧を検出する機器、② EVTは系統に1台のみ、③ それ以外は ZPD で検出する、④ 組み合わせる保護継電器は ZPD と EVT で異なる』と書かれています。
[5] GTR : 接地変圧器、Grounding Transformerの略
6.6kV 系統が非接地方式で EVT 接地方式としている場合の 「地絡保護継電器の不要動作」 について、3社の方にその現象と対策について説明して頂きました。 これらのトラブルの実例を参考にして、皆さまのトラブル解消のご参考にして下さい。 具体的な対策としては、ケーブルによる充電電流などをきちんと加味した地絡電流計算を行って、地絡方向継電器 67 を正しく設定すること、必要に応じて、GPT接地方式、所内電源用変圧器を兼用する方式、ZPD方式 の採用などについても検討すると良い。 電機メーカーやエンジニアリング会社の方とも良く相談して、皆さまの会社にとって最適の解決法を見つけて下さい。
この Q&A コミュニティでは、引き続き、① 1線地絡事故が生じた場合の V0, I0 の流れ(向き)、位相角などの分布について、Question の系統図を Modeling して、多重接地がある場合と無い場合、ケーブルが長い場合と短い場合の Case Study、② 地絡方向継電器 67 の設定方法、③ GPT の容量算出方法、などのテーマについても取り上げたいと思います。 皆さまからのご質問、資料のご提供についてのご協力をお願いします。
(電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)