感電は、① 電気設備や電気製品の不適切な使用や電気工事中の作業ミスなどにより充電部分に接触する「直接接触」、② 機器の故障や劣化などによる漏電や自然災害である落雷などによる「間接接触」によって、人体に電流が流れ傷害を受けることであり、若干の刺激を感じる軽度ものから、死亡 (感電死) に至る重度の事故がある。感電の影響の大きさは、流れた電流の大きさ、流れた時間、流れた経路 (人体の部位) によって変わります。1秒間感電した場合の、電流の大きさによる症状はおよそ次のとおりです。
- 0.5mA 電流を感じない
- 1mA 有害な生理的反応はないが、ピリッとした刺激を感じる(電気設備技術基準・解釈の第14条第1項 に「漏洩電流は1mA 以下」と規定されている)
- 10mA しびれを感じる
- 20mA 筋肉収縮や呼吸困難が現れる
- 30mA 感電から自ら離脱できなくなる(感電から保護する目的で15~30mAの高速型の漏電遮断器が使用されている)
- 50mA 非常に危険
- 100mA 致命的 (重篤な被害が起こる)
「直接接触」による感電は、電気設備などに故障が無く正常に動作していても起こりうる感電で、活線作業時に充電部分に触れる、高電圧での空中放電、コンデンサに充電された電荷、近接電線からの誘導電流などの要因によって生じます。 対策として、① 作業時に絶縁防具を使用する、② 電路に作業用接地を施すなどの対策が必要です。高圧又は特別高圧の電気施設には、「電気設備に関する技術基準を定める省令(電気設備技術基準)第23条」に危険表示等の安全対策をすべきことなどが定められており、一般的にJIS規格に基づく安全標識が使用されている(義務ではない)。
「間接接触」による感電は、電気設備などが正常であれば起こらない感電で、電気機器の絶縁が劣化し、内部の充電部から外部の非充電部に(外箱)に漏洩電流が流れ、その部分に触れることによって生じます。対策として、① 人が触れる部分(外箱)を接地して電圧上昇を抑える、② 漏電遮断器や過電流遮断器などの保護装置と適切な接地により瞬時に地絡電流を遮断する、など対策が必要です。 質疑応答 2023-0219 漏洩電流(漏れ電流)と零相電流 でも記述しているように、「低圧電路の絶縁抵抗」について、「電気設備技術基準第58条」に、電路の漏洩電流が1mA以下になるよう、下記のように定められています。
- 150V以下の場合、絶縁抵抗1MΩ以上(電路の電源電圧が100Vの場合1mA以下)
- 300V以下の場合、絶縁抵抗2MΩ以上(200Vの場合1mA以下)
- 300V超過の場合、絶縁抵抗4MΩ以上(400Vの場合1mA以下)
接地の目的は、① 事故時の機器の電位の上昇を抑える、② 漏電遮断器や過電流遮断器の確実な動作を実現することです。接地の種類として、A種:高圧機械器具の接地(10Ω以下)、B種:変圧器の中性点接地 (高低圧混触による危険防止の接地)(150/Ig Ω以下、)、C種:300Vを超える低圧機械器具の接地(10Ω以下)、D種:300V以下の低圧機械器具の接地(100Ω以下)が規定されていますが、これらの規定は最低条件で、これらに規定の抵抗値を満足していても、必ずしも運転員および作業員に対する「感電」の問題が解決されたとは言えません。地絡電流の値によっては、接地電位 (GPR: Grounding Potential Rise) が上昇し、接触電圧や歩幅電圧が大きくなり、感電による人身事故が生じる恐れがあります。 接地電位 (GPR: Grounding Potential Rise) と、接触電圧 (Touch Voltage) および歩幅電圧 (Step Voltage) の関連について、<質疑応答 2022-0170 の抜粋> を記載しますのでご参考にして下さい。
<質疑応答 2022-0170 の抜粋>
事故電流によって接地極周辺の地表面の電位、接地電位 (GPR: Grounding Potential Rise) が上昇し、接触電圧や歩幅電圧が大きくなり、感電による人身事故が生じる恐れがあります。
ここで、接触電圧 (Touch Voltage) とは、接地を施した構造物に事故電流が流れた時、接地極近傍の電位が上昇します。この時、人畜が構造物に接触した際に生じる手と足の間の電位差です。IEEE(米国電気電子学会)によれば、「接触電圧は構造物と大地面の距離1mの電位差」と定義されています。
歩幅電圧 (Step Voltage) とは、接触電圧と同様に接地極近傍に電位が生じた時、人畜の両足間に生じる電位差のことです。IEEE(米国電気電子学会)によれば、「歩幅電圧は接地極付近の大地面の2点間(両足)の距離1mの電位差」と定義されています。
接地電位、接触電圧、歩幅電圧は、接地抵抗地、地絡電流値、事故を解放するまでの時間によって計算することができます。IEEE80 では、運転員および作業員の体重(50kgあるいは70kg)によって接触電圧および歩幅電圧の許容値が定められており、図1に示す値になります。
接地電位 (GPR) を求め、接触電圧および歩幅電圧を計算には、地絡電流計算、接地抵抗計算(メッシュ接地、接地導体、接地方棒の配置やサイズ、埋め込み深さなど土壌の状態を考慮した計算)、保護協調と保護装置の遮断時間の検討を一体とした検討が必要です。ご参考までに、電力系統解析ソフトウェア etap を用いることにより、これらの統合的な検討を行い、接触電圧および歩幅電圧の許容値との比較検証を行うこともできます。etap については株式会社エルテクス設計にて講習会を行っていますので、Phone 047-490-1010、email etap2@eltechs.co.jp にお問合せ下さい。
(参考文献)
[1] Safety Limit Calculations to IEEE and IEC Standards : Electro technik Safety Limit Calculations to IEEE and IEC Standards – ELEK Software
[2] GROUND POTENTIAL RISE, STEP AND TOUCH POTENTIAL Ground Potential Rise, Step and Touch Potential – Voltage Disturbance (voltage-disturbance.com)
(電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)