66kVで受電している工場の単線結線図で、6.6kVに降圧した母線にEVTとは別に接地用変圧器が記載されていました。 接地用変圧器は一次側(6.6kV側)がスターで中性点接地されており、2次側に抵抗が接続されている図になっていました。 この文章だけでは分かりくいかもしれませんが、6.6kV側に接地用変圧器を設ける理由って何があるのでしょうか?
単線結線図が無く理解しにくいので、説明のために 質疑応答 2023-00235「多重接地による地絡保護継電器の不要動作」で用いた図を基に説明します(図1参照)。 図1の青点線枠内に示すように、6.6kVに降圧した母線の左側の図が EVT(接地形計器用変圧器 : Earthed Voltage Transformer)接地方式、右側の図が GTR(接地用変圧器 : Grounding Transformer)接地方式です。 GTR の一次側はスター結線で中性点接地されており、2次側のブロークンデルタに電流制限抵抗 CLR が接続されています。 この系統を基に 「EVT があるのに、さらに GTR を設ける理由は何か?」という質問と捉えて回答します。
ここで、EVT (Earthed Voltage Transformer) は、以前はGPT(Grounding Potential Transformer)と呼ばれていました。 GTR (接地用変圧器 : Grounding Transformer)と混同し易いので注意して下さい。
これは私の想像になりますが、ご質問の工場では最初は EVT 接地方式 だったと思います。 EVT 接地方式 は中性点抵抗が 10,000(Ω)程度の高抵抗接地と等価であり、1線地絡事故が生じた場合の地絡電流が 380 (mA) 程度と小さい値なので(質疑応答 2023-00237「1線地絡事故時の零相電流の流れ(向き)と位相角」の1.3項参照)、ケーブルのキャパシタンスによる充電電流やPMWインバータの有無によっては、方向地絡継電器67の不要動作をする恐れがあります。
このような方向地絡継電器67の不要動作を防止し地絡保護を確実にするために、この系統の地絡電流が 10~30A となるように GTR 接地方式 を追加したものと思われます。 地絡保護継電器の不要動作については、質疑応答 2023-00235「多重接地による地絡保護継電器の不要動作」にA社、B社、C社のトラブル事例と対応策をまとめていますのでご参考にして下さい。
なお、ひとつの系統に EVT 接地方式(中性点抵抗10,000Ω程度)と GTR 接地方式(中性点抵抗130~380Ω程度)の両方があるとき、GTR 接地方式 には 10~30A 程度の地絡電流が流れます。 EVT 接地方式 の地絡電流 380mA 程度です。 方向地絡継電器67の不要動作を避けるために、EVT 接地方式は撤去した方が良いと思います。 いずれにしましてもこの問題は悩ましい問題ですので、質疑応答 2023-00235 および 2023-00237 に記載されている事例などを参考して対応策を検討して下さい。
GTR を新たに設置することが困難な場合は、図1の緑点線枠内に示すように「所内電源用変圧器を兼用」する方式(例えば、所内電源変圧器Y-Δ(200V-100V)の6.6kVのY巻線を接地するように改造する)が経済的です。
事務局より :
「Q&Aゾーン」 から EVT で検索すると、下記のような質疑応答を見ることが出来ます。 さらに、地絡 で検索すると20項目程度の質疑応答を見ることが出来ます。 併せてご参照下さい。
- 2023-0221 (現場とトラブル) 非接地系統のEVT接地方式による保護
- 2023-0222 (現場とトラブル) インバータ駆動電動機のEVT接地方式による保護の例
- 2023-0235 (現場とトラブル) 多重接地による地絡保護継電器の不要動作
- 2023-0236 (現場とトラブル) EVT接地がある系統での地絡方向継電器の不要動作
- 2023-0237 (現場とトラブル) 1線地絡事故時の零相電流の流れ(向き)と位相角
(電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)