近年、地球温暖化対策やエネルギー自給率向上などから、太陽光発電や風力発電の導入量が拡大してきています。2022年の日本における太陽光発電の導入量は7,394万kW、風力発電の導入量は480.2万kWとなっています[1]。今後のカーボンニュートラルの達成に向けて、さらなる導入拡大が期待されています[2]。しかし、太陽光発電や風力発電は天候により出力が変動するため、再生可能エネルギーを主力電源とするためには多くの課題が残されています。
1. Grid Following Inverter(GFL方式とGFM方式)
これまでの火力発電や水力発電などは、同期発電機により電力を供給しています。再生可能エネルギーの 導入が拡大すると、需要と供給のバランスを取るために、同期発電機の連系台数を減少させる必要があります。しかし、太陽光発電や風力発電などは、インバータを介して電力系統と連系されるため、同期発電機が持っている回転エネルギーの合計(慣性力と呼ばれている)が減少します[3]。そこで、再生可能エネルギーや蓄電池システムのインバータ(パワーコンディショナ)に疑似慣性力を導入する研究が盛んに行われています。
パワーコンディショナの制御方式として、電流制御方式である Grid Following Inverter:GFLと電圧制御方式である Grid Forming Inverter:GFMがあります。 これまでの主なパワーコンディショナは、GFL方式でしたが、近年の再生可能エネルギー導入拡大に伴う系統安定化対策として、GFM方式の導入が検討されています。
GFMの制御方式には、インバータ出力電圧と周波数を出力電力に比例させて制御するドループ制御方式、インバータを仮想的な同期発電機としてモデル化する仮想同期発電機 (Virtual Synchronous Generator:VSG) 方式や系統の電圧と周波数に合わせて制御するマッチング方式などがあります[4]。
2. 系統用蓄電池
太陽光発電や風力発電は、天候によって出力が変動しますので、これを主力電源化するためには、その変動を吸収する蓄電池が必要になります。とくに海外などで大規模な蓄電池の導入が進んでいます。
豪州やハワイでは、風力、太陽光の発電コストが低く、経済的に合理性がある選択肢として、導入拡大が進んでいます。それに合わせて大規模な蓄電池への投資も盛んに行われています[5][6][7]。 日本でも風力発電の変動対策として、大規模な定置型蓄電池が導入されています[8]。
また、新しい蓄電池として、全固体電池やリチウム硫黄電池、ナトリウムイオン電池などがありますが、レドックスフローの拡大が見込まれています[9]。
3. ペロブスカイト型太陽電池
文献[10]によれば、ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト構造を持つ材料を光吸収層に用いた太陽電池です。従来のシリコン太陽電池よりも軽量で柔軟性があり、製造コストが低いという特長がありますが、耐久性や環境への影響がなどの課題もあります。日本発の技術として注目されてきていますが、中国でも活発な開発が行われています[11]。
4. 洋上風力発電
日本において再生可能エネルギーの導入拡大が期待されていますが、国土が狭いことなど地理的制約から、大規模な太陽光発電や風力発電が難しくなっています。一方で海に囲まれた国土であることから洋上に風車を設置する洋上風力発電が注目されています[12]。また、洋上は陸上に比べて風況が良いことから陸上よりも稼働率が高くできることが期待されています。2022年に秋田県で稼働を開始してから各地での導入計画が進められています[13]。しかし、洋上から陸地まで長距離の送電が必要となるため、多端子直流送電システムなどの直流送電に関する技術開発も進められています[14]。
参考文献:
[1] 電気事業連合会 太陽光、風力の導入実績 https://www.fepc.or.jp/environment/new_energy/jisseki/index.html
[2] 2050年カーボンニュートラル実現に向けた再エネの更なる大量導入と長期安定稼働に向けて https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/064_03_00.pdf
[3] 日経クロステック 「再エネと蓄電池の主力電源化時代、系統の“指揮者役”も交代」 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02391/040300005/
[4] 二村 他:「GFMインバータの制御方式に対する応答性の比較検討」、令和4年電力・エネルギー部門大会
[5] 日経エネルギーNext:「マーケット考察 産炭地も石炭火力廃止へ、豪州は調整力も系統増強も蓄電池が担う」 https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00007/00121/
[6] 日経エネルギーNext:「マーケット考察 安定供給の要を石炭火力から蓄電池へ、ハワイの選択」 https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00007/00120/
[7] メガソーラービジネス:「世界で急増する定置型蓄電池、系統増強よりも有利に、IRENA 調査」 https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/feature/00007/00129/?ST=msb
[8] メガソーラービジネス:「国内最大720MWhの定置型蓄電池が稼働、道内風力が倍増へ」 https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/03369/?ST=msb
[9] 次世代蓄電池、再エネ普及で市場拡大、レドックスフローが有望 https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/04202/?ST=msb
[10] 日経ビジネス:「軽くて曲がるペロブスカイト太陽電池 次世代再エネのカギに」 https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00081/110600721/
[11] 日経ビジネス:「ペロブスカイト太陽電池、国家戦略に中国の壁 発電コスト下げ必須」 https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00332/112900096/
[12] エネルギー・金属鉱物資源機構:「洋上風力発電って何がすごい?日本における再生可能エネルギーのメリットを解説」 https://www.jogmec.go.jp/publish/plus_vol10.html
[13] 自然エネルギー財団:「インフォバック 洋上風力発電の動向 世界と日本における現状(第5版 改訂版)」 https://www.renewable-ei.org/activities/reports/20240712.php
[14] 加藤:「来るべき洋上風力発電実用化時代に向けた系統技術~次世代洋上直流送電システム開発事業~」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jwea/42/4/42_478/_pdf