Excel を用いて(あるいは手計算)で短絡電流計算を行う場合は、どうしても、『① 系統モデルを簡略化する ② 複素数計算を簡略化する(抵抗分を無視する)③ 機器の定数を一定値として扱う(電圧、周波数、周囲温度などの変化による定数の変化は無視する)④ 規格等で定めれた諸定数の適用ができない ⑤ 遮断器やヒューズなどの保護装置の試験方法と一致した条件での計算および評価ができない』 などの問題が生じます。
短絡電流計算手法に関する代表的な規格として、『① 米国の ANSI規格 ② 国際化に伴って、IEC規格 ③ ドイツ規格をベースとして規定されたロシア規格』 等による計算手法があります。
国内では、私がエンジニアリング会社に入社した50年前当時(半世紀前ですね)は、国内に短絡電流計算に関する規定がないこともあり、米国のANSI規格に基づいた手法を学び、発電機や電動機のインピーダンス値や非対称係数等をANSI規格に書かれている値を用いて計算していました。 その後、国際化に伴い海外の EPC 案件では IEC規格の適用が要求されるようになり、また、JIS/JEC/JEM にも IEC規格の規定が取り入れられつつあり、国際的に IEC規格による計算が一般的になって来ました。
最近では、電気学会の 「工場配電調査専門委員会」で「工場配電」を発刊する中で、いろいろ議論があったようですが、従来の短絡電流計算手法については教科書的な内容のままで、IECのような国際規格による解析手法は殆んど取り入れられませんでした。 ユーザーをはじめメーカーからも 『日本の電気設備がIEC規格で展開されていないので、IECによる短絡電流で製品を要求されると厳しくなる(コスト高になる)』という意見が多かったと聞いています。 私の個人的な見解としては、国際的に通用する電気製品を世界に輸出するためにも、IEC規格にどこか少し手を加えた規定ではなく、IEC規格そのものを日本の規格にした方が良いと思っています。 少なくともエンジニアとしては、IECなどの国際規格ではどのような計算手法になっているか、どのような評価をしているのかを理解しておくべきと思います。
詳細な短絡電流計算を行うための便利なツールについて、私としては『電力系統解析ソフトウェア etap Power Simulator』を奨めします。etap は、下記の規格に基づいて短絡電流計算を行い、遮断器やヒューズなどの保護装置の評価(短絡電流値の各要素に対して、正常に遮断できるか、遮断されるまでの間機器が耐えられるか等)の評価を行います。
- IEC規格 IEC 60909(工場配電、)IEC 61363(船舶関連)
- 米国規格 ANSI/IEEE C37
- ロシア規格 GOST
なお、下記の事項については、別の質問番号でのご質問に対してお答えします。 併せてご参照下さい。
- IEC規格による短絡電流計算手法
- 短絡電流計算結果と保護装置の遮断責務の評価
- 短絡電流計算結果が保護装置の遮断能力に対して大きい場合の対応策
- IECによる短絡電流計算結果と手計算による計算結果の比較
- 発電機および変圧器のインピーダンス補正係数
この回答でご不明の点がありましたら、追加質問等をお待ちしています。