近年デジタル型のAVR および ガバナはモデル通りに組むことでシミュレーションと実測が近し応答を得られることが多いです。 しかし、古い発電機の場合はブロックの通りにモデルを組んでも応答が一致しないこともあります。 ご質問者の方がどういった経緯でどういった応答が一致しなかったのかは分かりませんが、基本的には作成した制御ブロックを下記のような手順で評価し、その上でシミュレーションを実施することをお勧めします。 この回答では米国OTI社が開発したETAP(電力系統解析用ソフト)を用いて説明します。
1. モデルの作成
通常はメーカーから受領したモデルのままにモデリングを実施します。 ここでは、メーカーから受領したモデルを掲載することができませんので、代わりに下図の AVR (IEEE Type1) モデルとガバナ (GT) モデルを用いて説明します。
図1-1 AVR (IEEE Type 1) モデル
図1-2 ガバナ (GT) モデル
2. 負荷遮断試験結果との比較
モデリングが完了したら発電機の納入時に実施した負荷遮断試験の結果を模擬します。 ここでシミュレーション結果と実測データの応答が近ければ作成したモデルを過渡安定度解析に使用できると判断できます。 まずは負荷遮断シミュレーションの結果を 図2-1 に掲載します。
図2-1 負荷遮断シミュレーション結果(調整前)
もしこのシミュレーション結果と実測データで大きな差がある時には原因を調べ、場合によってはパラメータを調整しなければなりません。 例として、実測データの最大値と整定値が下記の値 および 時間だったとします。
最大値 整定値
電圧: 7.8kV(0.4秒) 6.6kV(12.0秒)
周波数: 104%(0.5秒) 100%(12.5秒)
この目標値に向けてAVR および ガバナの定数を調整します。 モデルそのものや発電機の定数を調整すると、負荷遮断シミュレーションの結果は一致しても負荷投入シミュレーション等の挙動に影響を与える可能性があるため、調整はモデル内の定数のみに行うことをお勧めします。 定数を調整した結果を 図2-2 に掲載します。 図2-3 にて両者(調整前と調整後)を重ね合わせると違いが良く分かります。
* 定数を調整したモデルについては割愛させていただきます。
図2-2 負荷遮断シミュレーション結果(調整後)
図2-3 負荷遮断シミュレーション(調整前、調整後の比較)
私のこれまでの経験ではシミュレーションと実測があわない理由として下記のようなケースがありました。
① ガバナのブロック図についてだけ例えばメーカーに質問をしたため「タービン側の上限・下限リミットがついておらず応答があわない」といった、相手側に質問が正確に伝わっていないケース
② デジタル式でないモデルにおいて、モデルを完全に落とし込むのが難しいケース
③ モデルが古すぎて ± の単純な書き間違いのケース
④ 緊急弁等の動作によりガバナのモデル外の制御が実測では起こっているケース
⑤ 受領したモデルの制御モードと実際の現場における制御モードが違うケース
これらの不備を避けるためにもモデルを組んだら先ずは負荷遮断試験結果と比較を行いましょう。 その時に挙動に大きな差がある場合はシミュレーションと実測が近しくなるようにモデル内の定数を調整してから過渡安定度解析を実施するようにしましょう。
(株式会社エルテクス設計 片山さんからの回答です)
事務局より:
質問番号 2021-0089 に「発電機(AVR&ガバナ)のダイナミックモデリング」についてのモデリング手法とモデリング結果の検証方法について掲載されています。この質問番号2020-0013「渡安定度解析における制御ブロックのモデリングの評価」の説明と重複する内容がありますが、併せてご参照下さい。