質問番号 2021-0105 で「日本の電気鉄道の電気方式」、質問番号 2021-0106 で「交流き電用変電所」について説明して頂きました。これに関連して、交流き電用変電所から電車線路に電力を供給する各種「交流き電方式」の回路構成およびその用途などについて教えて下さい。
交流電気鉄道はレールから大地へ電流が漏れると、トロリ線とレールの電流が不平衡になり通信線に誘導電圧が発生します。このため、レールは接地せずにレールから大地へ漏れる電流が小さい BTき電方式 や ATき電方式 が開発されて実用化されています。また、変電所やき電区分所などでレールと接地間を3kVまたは5kVの放電装置で結んで、地絡事故時の大地電流を、変圧器、負き電線(BTき電回路)、PW(ATき電回路)などに流れるようにしています。電車線路の標準電圧は、在来線が20kV、新幹線が25kVです。
1. BT き電方式
吸上変圧器(BT:booster transformer)は巻数比が1:1の電流変圧器です。図1.1 はBTき電回路の構成で、約4km毎にBTが配置され、レール電流は電柱上部に配置された負き電線(NF:negative feeder)に吸い上げられ、通信誘導は小さくなります。現在は在来線の交流電気鉄道に用いられていて、BTの定格容量は64kVA(320V・200A)と144kVA(480V・300A)が用いられています。変電所間隔は30~50kmです。
図1.2 は吸上変圧器(64kVA)と電車線柱の装柱で、電柱上部左のがいしで支えられいるのが負き電線です。
図1.3 はBTき電回路の変電所から見た線路インピーダンスです。トロリ線-レール短絡ではBT箇所で電流方向が変わり、階段状になります。また、定格電流ではNF電流のトロリ線電流に対する吸上げ効率は100%に近いですが、定格電流の2倍位からBTは飽和し、事故電流では吸上効率は60%程度に低下してレールに電流が流れます。また、BTセクションではパンタグラフ通過時にアークが発生するため、NFに数Ωのコンデンサを挿入して線路のリアクタンスを補償して、アークを抑制したり、線路インピーダンスを小さくしています。
2. AT き電方式
単巻変圧器 (AT:auto-transformer) は、2つの巻線が相互に共通部分を有する変圧器であり、共通部分を分路巻線、線路に直列になる部分を直列巻線といいます。ATの自己容量 (equivalent capacity) は直列巻線または分路巻線の電圧と電流の積であり、実質的な大きさを表します。線路容量 (throughput capacity, rated capacity) は線路に供給できる容量です。ATの自己容量は、在来線で2.5MVA、5MVA、新幹線で5MVA、7.5MVA、10MVAです。ATの漏れインピーダンスは中性点換算、電車線路電圧基準で4.5Ω以下としています。
図2.1 はATき電回路の構成で、変電所から電車線電圧の2倍の電圧でき電し、約10km間隔でATを配置して、電車線電圧に降圧しています。き電電圧が電車線電圧の2倍であるので、き電電流が1/2となり、電圧降下が小さく、変電所間隔をBTき電回路の3倍程度に長く出来ます。レール電流は負荷点の両側のATに向かって分流するため、通信誘導電圧はキャンセルしてBTき電回路並みに抑制されます。新幹線の変電所間隔は約50kmです。集電上の弱点も少なく、大電力の供給に適しており、現在の交流き電回路の標準方式として用いられています。
図2.2 は、新幹線用AT(7.5MVA)の外観です。
図2.3 は変電所から見たATき電回路の線路インピーダンスです。電車線のインピーダンスであるトロリ線-レールの短絡インピーダンスは、AT箇所を節として上部に膨らんでいますが、BTき電回路の1/3程度の大きさです。抵抗とリアクタンスの比率である線路角は約75度です。
(持永芳文 記)