高調波電流があると、力率が悪くなることですが、その理由として高調波電流により、皮相電力が増加するとのことです。
基本波は電圧波と電流波の位相差で力率が生じるが、高調波の場合は位相差がないとメーカーのカタログに書かれています。
高調波の場合は位相差がないということが理解できません。
どなたか私のようなものに指導願います。
「基本波は電圧波と電流波の位相差で力率が生じる」が、「高調波の場合は位相差がない」という件について、数式が多くなってしまいますが、下記のように説明します。式(1)~式(9) は下段に纏めて記載しています。
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ひずみ波となる電圧の瞬時値を 式(1) のように表すとします。ここで,V0 は直流成分,n=1 の項の V1 を基本波,n≧2 の項を高調波と呼びます。
ひずみ波となる電流も同様に 式(2) のように表すとします。ここで,θn は,n次高調波の電圧と電流の位相差を表します。
直流成分が生じないとすると,電圧と電流の実効値は,式(3) および 式(4) のようになります。このとき,瞬時電力 p(t) は 式(5) となり,有効電力 P は,式(6) となります。
また,力率は 式(7) となります。ここで,電力系統の電圧の高調波は,数%程度であることから,説明の簡単化のために電圧の高調波成分を 0 とします。そうすると,式(7) の力率は,式(8)のように表すことができます。
一方,力率改善用のコンデンサの容量設計などでは,基本波のみで考えることが多いので,式(8) で電流の高調波成分を 0 としますと,力率は 式(9) のようになります。
そこで,式(8) の力率と 式(9) の力率を区別するために,式(8) の力率を「総合力率」,式(9)の力率を「基本波力率」と呼ぶことがあります。
ここで,基本波力率は,基本波電圧と基本波電流の位相角差 θ₁ で決まるので,「基本波は電圧と電流の位相差で力率が生じる」と書かれていると思われます。
一方,高調波を考慮した 式(8) の力率は,高調波電圧と高調波電流の位相角差 θn が出てこないことから,「高調波の場合は位相差がない」と書かれていると思われます。
なお,インバータなどで,電源の高調波電流低減を目的として,インバータ入力の交流側やインバータ内部の直流側にリアクトルを設置することがあります。この場合,高調波電流が低減しますので,式(8) で表される力率の値は大きくなります。このため,これらのリアクトルは,「力率改善リアクトル」と呼ばれます。
(名古屋工業大学 准教授 青木 睦 記)