高圧機器の事故は、➀ 機器劣化、施工および点検不良、② 風雪・雨水侵入・雷害などの自然災害、③ 動植物の接触などによって生じることが多い。 ここでは、➀ 機器劣化、施工および点検不良によるトラブル例について紹介します。
1. 真空遮断器 (VCB) と 高圧真空電磁接触器 (VCS) の劣化
真空遮断器 (VCB) は、碍子の絶縁劣化などの「保守不良」と雷害などの「自然現象」によるトラブルが多い。屋内に設置され、充電部もカバーされているが、絶縁フレームにトラッキングが発生することがある。対策として、定期的な点検(清掃)、古い設備の場合は高圧機器類の更新推奨時期を基に設備更新が必要である。図1 は、高圧真空電磁接触器(VCS)の事故例である。自動力率調整用のVCSが地絡・焼損したため、地絡継電器が動作して地中線用負荷開閉器 (UGS) が解放し、工場が全停電に至った。原因は経年劣化により真空バルブの金属部が腐食し、真空漏れによりバルブ内部の耐電圧が低下したことによる。対策として、➀ 高圧機器類の更新推奨時期を基に、計画的な設備の更新を実施すること、② 異常が疑われる場合は、真空度試験を行い真空度の確認する、などの定期的な点検保守が必要である。(図1参照)
2. 真空遮断器 (VCB) の動作不具合
年次点検時、VCB の動作試験において、「VCB 開放→バネ自動蓄勢→投入してしまう」という動作不具合が生じた。調査の結果、原因は操作部の潤滑油の油切れであった。保守基準に基づいて、定期的に動作部に注油がするなどのメンテナンスが必要である。
3. 真空遮断器 (VCB) の放電
月例点検時、キュービクルの扉を開けたところ、受電 VCB 付近からのチリチリという異音に気が付いた。 部分放電測定を実施したところ62dBであったため停電して調査した結果、リーク痕が発見された。 原因は、VCB が経年劣化により絶縁低下し放電したものと推定される。対策として、高圧機器類の更新推奨時期を基に、計画的な設備更新が必要である。(図2参照)
4. 高圧交流負荷開閉器 (LBS) の不具合
月例点検時、LBS の S相主接点が受け側に接触していないことを発見した。原因は、ラッチの引っかけボルトの緩みであった。停電点検の際に増し締めを行い、波及事故を防ぐことが出来た。(図3参照)
5. 計器用変圧器 (VT) の亀裂
月例点検時、受電電圧を確認したところアンバランスの値が表示された。 動力変圧器の電圧に異常が見られなかったことから、VT 自体に異常があると推測し目視点検したところ、モールド樹脂が溶け亀裂も見つかった。この VT は製造後20年経過しており、経年劣化によるものと推定される。対策として、高圧機器類の更新推奨時期を基に、計画的な設備更新が必要である。(図4参照)
6. 変圧器一次側ブッシングの接触不良
動力変圧器(3相50kVA)の一次側ブッシングと高圧絶縁電線の接触不良により、工場内で使用している電動機の一部が運転できなくなった。原因は、施工不良により高圧絶縁電線が電線挿入穴に正しく挿入されていなかったためである。工事の際に正しく施工されていることを確認することが必要である。(図5参照)
7. 高圧ピン碍子の亀裂
月例点検時、構内1号柱の高圧ピン碍子を双眼鏡で点検したところ亀裂を発見した。雷により破損したものと思われる。(図6参照)
8. 進相コンデンサのトラブル
進相コンデンサは、自然劣化に対する保守不良と 風雨・水害の自然現象によるトラブルが多い。高調波による過熱や絶縁破壊などの事故も発生している。対策として、古い設備の場合は設備の更新、リアクトルの設置などが考えられる。高調波対策については、Q&A 200 Book の第6章「高調波とその対策」を参照して下さい。コンデンサの内部破壊至る経緯の説明については、下図を参照して下さい。 (図7参照)
9. 絶縁破壊した高圧ケーブル
高圧ケーブルのトラブルの原因は、20年を超える自然劣化(保守不良)、作業員過失の事故、自然現象、動植物の接触と続く。下図は、絶縁破壊した高圧ケーブルのトラブル例である。 (図8参照)
10. 高圧ケーブルの屋外端末部腐食劣化
年次点検時、高圧ケーブルの屋外端末部が腐食劣化しているのを発見した。原因は、施工不良によりケーブル端末絶縁カバーの水抜き部分が機能せず、端子部分に水が溜まり、端子部が腐食劣化したものである。工事の際、施工状態をよく確認することが必要である。 (図9参照)
ケーブルのトラブルは、風雪・雨水侵入・雷害などの自然災害、動植物の接触による事故も多い。 質疑応答 2022-0212 および 2022-0213 もご参照下さい。
(出展 : 関東電気保安協会)
補足説明:
産業用電気設備の保守点検については、質疑応答 2021-0115「産業用電気設備の保守点検」をご参照下さい。 また、質疑応答 2020-0081「自家用電気設備のトラブル事例」で紹介した参考文献(下記参照)も併せてご参考にして下さい。
参考文献:
- 「自家用電気設備のトラブル事例」日本電気技術者協会 関東支部編著 https://www.ohmsha.co.jp/book/9784274504174/
- 「電気技術者のための 失敗100選」大嶋輝夫著 https://www.ohmsha.co.jp/book/9784274502552/
- 「続 電気技術者のための 失敗100選 対策編」大嶋輝夫著 https://www.ohmsha.co.jp/book/9784274506741/
(電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)