海外石油メジャーなどは、どのような考え方で瞬低対策を行っているのでしょうか? このコミュニティの質疑応答の中での説明との違い等を含め説明して下さい。
(産業用電気設備関係の方からの質問です)
海外石油メジャーの代表的なエンジニアリング手法として Shell DEP(Design and Engineering Practice)があります。 この Shell DEP の中で、「① 0.2秒以内の瞬低の場合は、電圧回復時、直ちに負荷を再始動させること、② 0.2~4秒以内の瞬低の場合は、電圧回復時、選択された負荷を順次再始動させること」 と記述されています。(4秒を超える場合は、もはや瞬低ではなく停電であり、プラントを安全に停止する手段を講じるという事でしょうか?)
これまでに下記の質疑応答の中で、大型化学プラントにおける瞬低対策について説明しています。これらの質疑応答と Shell DEPとの基本的な考え方は同じですが、違いとして「Shell DEPが、0.2秒以内の瞬低の瞬低と0.2~4秒以内の瞬低に分けて」対応策を記述しているのに対して、「Q&Aの質疑応答では、瞬低時に遮断器や電磁接触器などが開路(電磁接触器の離落など)された場合と、閉路を保持した場合とについて」対応策を記述している事です。
- 2021-0097 瞬時電圧低下とその対策
- 2021-0098 誘導電動機を有する産業設備の瞬時電圧低下対策
- 2021-0099 瞬時電圧低下対策の実例(海外編)
- 2021-0100 瞬時電圧低下対策の実例(国内編)
- 2022-0210 大型化学プラントにおける瞬時電圧低下の影響と対策
ここで検討すべきことは、Shell DEP の記述のように「0.2秒以内の瞬低の場合、電圧回復時、直ちに負荷を再始動(電磁接触器を再投入など)をしても良いか」という事です。Shell DEPは40年以上の実績があり、かつ、Oil & Gas 業界では非常に有名で、その考え方は、ABB、Siemens、Schneider 等が製作している Motor starting relay に標準的な機能として組み込まれています。
そこで、0.2秒の瞬低で誘導電動機が系統から解列した後の残留電圧について、etapでモデル系統を組んで検証して見ました。下図は、0.5秒に受電系統で短絡事故が発生し、0.2秒後の0.7秒に事故を解除することで0.2秒の瞬時電圧低下を模擬した場合の、誘導電動機端子の電圧波形です。誘導電動機の発電作用により、残留電圧は0.1秒に78%程度、0.2秒後に68%程度になっています。
このように、0.2秒以内の瞬低の場合、殆んどの誘導電動機の残留電圧が60%程度残り、電磁接触器等が離落しないことが十分考えられることから、Shell DEP では上記のように「① 0.2秒以内の瞬低の場合は、電圧回復時、直ちに負荷を再始動させること」という記述になっているものと思われます。
これは私見ですが、系統解析ソフトウェアも使いやすくなっていることもあり、「0.2秒以内の瞬低か、0.2~4秒以内の瞬低か」ということよりも、0.2秒以内の瞬低で離落する電磁接触器があると考えられるので、「瞬低時に遮断器や電磁接触器などが開路(電磁接触器の離落など)された場合と、閉路を保持した場合」という点に着目して、系統解析ソフトウェア等による瞬低解析に基づいて対応策を検討することが望ましいと考えます。
(電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)