電位降下法による接地抵抗測定について、どのような方法なのか説明して下さい。 接地電極E、電流補助電極Cと電位補助電極P間の適切な距離の取り方、その算出方法についても教えて下さい。
電圧計で抵抗にかかる電圧、電流計で抵抗に流れる電流を測定し、その測定値から抵抗を求める方法を「電位降下法(もしくは電圧降下法)」といいます。 先の〔質疑応答2023-0247 接地抵抗の測定方法〕で示した「直読式接地抵抗計」と「電圧降下法」による接地抵抗測定も基本的にはこの原理を用いています。
ちなみに、日本では接地規模の違いに応じて測定方法を2つに分別していますが、IEEEでは、この原理を使った測定法を “Fall of potential method”(直訳:電位降下法)と示されており、日本のような区別がありません。 また、日本国内の一部では、大規模な接地体を測定する電圧降下法(経済産業省の 「使用前自主検査及び使用前自己確認の方法の解釈」での名称)を電位降下法と呼び、接地抵抗計の3極法と別物として捉えるケースも見られます。
少しややこしい事情があるのですが、本項では、接地抵抗計における3極法も電圧降下法も、原理は「電位降下法」であるものとして解説を進めて行きます。 それでは、以下で「電位降下法」による接地抵抗測定の原理を解説していきます。
1. 電位降下法による接地抵抗測定
(1) 接地抵抗の定義
接地抵抗とは、ある接地極に接地電流 I[A]が流入すると接地極の電位が周囲の大地に比べて E[V]だけ上昇します。 このときオームの法則により、R=E/I〔Ω〕となり、この抵抗 R〔Ω〕を接地抵抗値とします。〔質疑応答2023-0241 接地と接地抵抗(接地抵抗の定義) 参照〕
(2) 接地極に電流を流す (図1参照)
接地抵抗値を知るためには、接地極に電流Iを流し込む必要があります。 しかし、電流を流すためには大地を介した閉回路を構成しなくてはなりません。 そこで、補助接地C極が必要となります。 この補助接地C極の設置位置は、測定対象となる接地極から、一定距離の離隔を設ける必要があります。 これは、この2つの接地極の抵抗区域(電位上昇が生じる範囲)が干渉することを避けるためです。
次に測定対象となる接地極と補助接地極の間に電源を設けて電流を流します。 すると、接地極には、接地抵抗 R [Ω] × 電流 I [A] からなる接地電位 E [V] が発生します。 一方、補助接地C極には、接地抵抗 Rc [Ω] × 電流 I [A] からなる接地電位 Ec [V] が発生します。 よって、電源電圧は E+Ec [V] となります。 なお、測定電流Iは、回路に電流計を挿入すれば簡単に測定できます。
(3) 接地電位を測る (図2参照)
接地電位 E [V] は、電位が 0 [V] の地点(基準電位)に対しての電位がどのくらいあるかを電圧計で測定します。 この基準電位を与える補助接地P極をE極とC極の中間地点に設けます。この地点にP極を設けるのは、接地極Eと補助接地C極の影響を受けず(もしくは電位が相殺される)、電位が 0 [V] とみなせる地点となるからです。 その状況を 図2 に示します。
理論的に電位が 0 [V] となる地点は、ほぼ無いと言えますが、接地電位に対して無視できるくらい小さい電位であれば良いと考えられます。 つまり、P極の配置場所は、ある程度の正しい値が測定できる場所であれば、必ずしもE極とC極の中間地点でなくても良いということがわかります。 このような事を知っていることで、様々な場面で応用が利くようになります。 なお、このような配置で測定する場合は、正しい基準点が与えられているかを判断できるだけの経験と知識が必要です。
2. 接地電極E、電流補助電極Cと電位補助電極P間の適切な距離の取り方
3極法では、E極-C極間の離隔距離を20mとし、E極-P極間の離隔距離を10mとして配置します。 しかしながら、様々な理由によりE極とC極の離隔E極の離隔を抵抗区域とC極の抵抗区域が干渉し、大きな測定誤差を発生させることがあります。 このような測定誤差を発生させる要因としては、接地規模に対してE極とC極・P極の離隔不足が考えられます。 その原因を以下の (1)項 に示します。
このような問題を防ぐために事前に理論上の適切な離隔距離を算出し現場で適用させることも考えられます。しかし、現場では理論式が合わないことが多々生じます。 なぜなら、理論式による検討は、① 均一大地抵抗率であること、② 地表面が水平であること、③ 周辺に電位分布にゆがみを生じさせるような構造物が無い、など理想的な地盤条件の元で計算します。 しかし、実際にはそのような理想的条件が揃っている現場などありません。 そこで、本稿では、現場で測定の正確さを確認する手法の一つを (2)項 で提案します。
(1) 補助接地の離隔の問題 (図3参照)
図3 はE極とC極の離隔が不足し、抵抗区域が重なってしまった時の電位分布曲線を示しています。 P極は、E極とC極の中間点にできる電位 0 [V] の位置に設けます。 図2 のように離隔距離が十分な場合は、0 [V] とみなせる範囲が広範囲にわたるため、P極の位置が多少ずれても問題はありません。 しかし、図3 のように離隔距離が足りない場合は、0 [V] の位置にP極を設置することすら困難となります。
また、E極の接地電位 E [V] は、C極のマイナス側に振れた電位 ΔE [V] の影響を受けて実際の接地電位 E [V] よりも小さな電位上昇 E’ [V] となっています。 もし、運よくP極がゼロ電位に配置できたとしても、接地電位は、実際の接地電位よりも小さい値となりますので、正しい接地抵抗値は求められません。 このようなことで、補助接地の離隔が不足すると大きな誤差が発生します。 補助接地の施工場所が無いからといって補助接地の離隔を短くすることは避けましょう。 また、抵抗区域が大きい大規模な接地体を測定する場合、10mの離隔では不十分なケースがあるということも言えます。
(2) 接地電極E、電流補助電極Cと電位補助電極P間の適切な距離の確認方法 (図4参照)
接地抵抗測定において、補助極の離隔距離が重要であることはご理解いただけたと思います。 そこで、この離隔距離が適切であるか確認する方法を一つご提案します。
図4 に接地抵抗測定(3極法)の測定を示しています。E-P-Cは直線状に配置し、E-C間の距離を20m、P-C間の距離を10mとしています。 まずは、この状態において接地抵抗値Rの測定を行います。
その後、P極を接地極側に2~3m程度移動し(P1の位置)接地抵抗値R1を測定します。 次に、P極をC極側に2~3m程度移動し(P2の位置)接地抵抗値R2を測定します。 この3つの接地抵抗値がほとんど変わらなければ、P極の周辺の電位は水平部(図2参照)となっており、正しい測定が出来ていると判断して良いでしょう。 一方、この3つの値に大きな違いがあれば、P極周辺の電位が水平となっておらず(図3参照)、正しい測定ができていないと判断できます。 このような場合は、E極の抵抗区域とC極の抵抗区域が干渉しているので、E-Cの離隔距離をより大きくする必要があります。
(日本地工株式会社の方からの回答です)