質疑応答 2022-0268「メーカーから提示される変圧器の励磁突入電流」で変圧器の励磁突入電流の計算について説明して頂きましたが、質問1 および 質問3 についてもう少し具体的に説明して下さい。
かなり難解になりますが、質問1および質問3について下記のように追加説明します。
質問1:「メーカーから提示される変圧器の励磁突入電流は、電源側インピーダンスがゼロ (?) のときの理論値である?」について
一般的には、質疑応答 2022-0268 の 質問1 の回答で良いと言えます。 もう少し具体的に説明すると下記のようになります。
変圧器の励磁突入電流は、投入する側の空心インダクタンスより電流値を求めています。 空心インダクタンスは2巻線変圧器を例にすると、1次側空心、2次側空心があります。1次側を投入する側とすれば1次側空心で計算します。 なお、「1次側空心インダクタンス = 1次側巻線インダクタンス + 励磁インダクタンス」となります。
励磁インダクタンスは飽和特性の飽和域での i-φ特性 の傾きと同じ値です。 電源インピーダンスを無視している意味は、空心インダクタンスが大きいからと言えます。 また、基本的には電源インピーダンスの値が受領できないため(需要家によって電源インピーダンスが異なるため)最大のインラッシュ電流を求めていると言えます。 この時、計算としては残留磁束が無く、既に飽和点での励磁インダクタンスが使われるので最も大きな電流値となります。
【補足】
本来だと飽和までの時間(残留磁束から飽和磁束点)があるので、最大電流は小さくなるはずです。 [1.7T(テスラ)が定格磁束だと、残留磁束を80%と仮定すると1.36Tから始まり, 珪素鋼板の飽和点は一般的に2.0T)]
質問3:「電源側インピーダンスを考慮した励磁突入電流の計算法は?」 について
質疑応答 2022-0268 の 質問3 の回答で「変圧器励磁突入電流の計算方法は、電源、電源系統の短絡容量(電源側インピーダンスのデータを入力)、変圧器のヒステリシス特性、漏れインピーダンス、巻線抵抗、などのデータを基に」と説明していますが、残留磁束も影響します。
【ご参考】
ここで変圧器に残る残留磁束のパターン(各相に残る磁束)についてですが、変圧器の中性点接地方式によってパターンが違います。
<Yn/D, D/Y, D/D結線の場合> Yn=中性点接地、Y=中性点非接地
A相残留磁束を正の最大(以下,maxと略す)としたケースでは、以下の2ケースとなります(すべてを考慮すると全6ケース)。
ケース1: B相を第1相遮断した場合の残留磁束 → A相磁束:max、B相磁束:0、C相磁束 :-max
ケース2: C相を第1相遮断した場合の残留磁束 → A相磁束:max、B相磁束:-max、C相磁束:0
Note : 第1相遮断の電流は負から正に自然零点となったパターンです。
ケース1より、B相遮断すると、A相の電流は進み電流となり2番目に遮断され、磁束は∔maxとなります。 C相は最後に遮断され、このとき電流は遅れ電流となり磁束は-maxとなります。 第1相遮断の相は必ず、残留磁束がほぼ0となります。
<Y/D結線の場合> Y=中性点非接地
A相残留磁束をmaxとしたケースでは、以下のケースとなります。
ケース1: B相を第1相遮断した場合の残留磁束 → A相磁束:max、B相磁束:-max/2、C相磁束:-max/2
(某電機メーカーの方からの回答です)