質疑応答〔2023-0240(現場とトラブル)感電と感電対策〕で、感電の定義(感電とは?)と感電対策について説明して頂いていますが、これらの感電による人体の保護に関する国内規格と国際規格について説明して下さい。
接地システムの設計と人体への電流の影響に関する規格として、米国規格 IEEE Std 80 : 2013、国際規格 IEC 60479-1 : 2008 および IEC 61140 : 2016、そして国内規格 JIS C 0365 : 2007 があります。 これらの規格を中心に人体への電流の影響と保護について説明します。 それぞれの規格相互の関連についても説明します。 なお、これらの規格は年々改訂されていることから、下記の情報は2024年1月における情報としてご参考にして頂き、実際の業務にあたっては最新の情報を確認して進めて下さい。
1. 米国規格 IEEE Std 80〔IEEE Guide for Safety in AC Substation Grounding〕
IEEE Std 80 : 2013 は、送電線や変電所などの高電圧設備の接地システムの設計に関する規格で、接地電位 (GPR: Grounding Potential Rise) や 接触電圧 (Touch Voltage)、歩幅電圧 (Step Voltage) などの計算方法や安全基準を示しています。
この規格は、事故時に変電所内で人体が接触する恐れのある電気機器や構造物と人体間に存在する可能性のある電位差の安全な限界を設計の基準について規定しています。 また、変電所の接地システムを見直し、安全な設計の基準を確立することも目的としています。 IEEE Std 80 の最新版は、2013年に発行された第3版です。
IEEE Std 80 については、質疑応答〔2022-0170 (現場とトラブル)66kV変圧器金属製外箱のA種接地工事の接地抵抗〕の第2項で接地電位 (GPR: Grounding Potential Rise)、接触電圧 (Touch Voltage)、 歩幅電圧 (Step Voltage) についての要点を記載していますのでご参考にして下さい。
2. 国際規格 IEC 60479-1 および IEC 61140
(1) IEC 60479-1 〔Effects of current on human beings and livestock – Part 1: General aspects〕
IEC 60479-1 : 2018 は、人体や家畜に流れる電流の影響に関する一般的な原則とデータを提供しています。 この規格は、電気ショックの危険性を評価し、電気ショックからの保護方法を設計するための基準を定めています。IEC 60479-1の最新版は、2018年に発行された第5版です。
(2) IEC 61140 〔Protection against electric shock – Common aspects for installation and equipment〕
IEC 61140 : 2016 は、電気設備と電気機器の感電保護に関する共通の原則と要件を定めたもので、IECの基本安全規格として、他の技術委員会が規格を作成する際の参考となるものです。 この規格は、人体や動物に流れる電流の影響に関する一般的な原則とデータを提供しており、電気ショックの危険性を評価し、電気ショックからの保護策を設計するための基準を定めています。 IEC 61140の最新版は、2016年に発行された第4版です。
(3) IEC 60479-1 と IEC 61140 の関連
IEC 60479-1 : 2018 および IEC 61140 : 2016 は、感電保護の基準と人体への電流の影響に関する規格です。 IEC 61140 : 2016 は、感電保護の原則と手段を規定した規格で、設備や機器の共通事項を扱っています。 IEC 60479-1 : 2018 は、人体や家畜に電流が流れた場合の生理学的効果を示した規格で、安全カーブや感覚の閾値などを定めています。
両者は、感電の危険性を評価し、適切な保護手段を選択するために相互に関連性を持った規格です。 例えば、IEC 61140 : 2001 の5.1.6項では、定常接触電流と電荷の制限について規定しており、その値は IEC 60479-1 : 2018 の安全カーブや感覚の閾値に基づいています。 また、IEC 61140 : 2001 の6.1項では、電源の自動遮断による保護について規定しており、その条件は IEC 60479-1 : 2018 の心室細動の閾値に基づいています。 このように、IEC 61140と IEC 60479-1 は、感電保護の観点から密接に関連している規格です。
3. 国内規格 JIS C 0365〔感電保護―設備及び機器の共通事項〕
JIS C 0365 : 2007 は、IEC 61140 : 2001 を基に作成された日本産業規格で、技術的内容や構成はIEC 61140 : 2001 から変更されていません。 したがって、JIS C 0365 : 2007 および IEC 61140 : 2001 は、同等の規格として認められています。
この規格は、人体や動物に流れる電流の影響に関する一般的な原則とデータを提供しており、電気ショックの危険性を評価し、電気ショックからの保護策を設計するための基準として用いられます。 JIS C 0365 の最新版は、2007年に発行された第1版です。
4. IEEE Std 80とIEC 60479-1の関連
IEEE Std 80 : 2013 および IEC 60479-1 : 2018 は、接地システムの設計において、人体に流れる電流の大きさや時間を評価し、適切な保護手段を選択するために相互に関連性を持った規格です。
例えば、IEEE Std 80 の第5章では、接触電圧 (Touch Voltage) や歩幅電圧(Step Voltage)の安全基準について規定しており、その値は IEC 60479-1 の安全カーブ〔許容人体通過電流/通過時間曲線〕や感覚の閾値に基づいています。 また、IEEE Std 80 の第6章では、接地システムの設計における人体の内部抵抗や皮膚抵抗について規定しており、その値はIEC 60479-1 の人体内部の抵抗の図や皮膚抵抗の表に基づいています。 このように、IEEE Std 80 とIEC 60479-1 は、接地システムの設計の観点から密接に関連している規格です。
IEEE Std 80 および IEC 60479-1 との関連について、 https://elek.com/articles/safety-limit-calculations-to-ieee-and-iec-standards/〔Safety Limit Calculations to IEEE and IEC Standards : Review and Comparison of IEEE Std. 80 and IEC 60479〕に詳しい説明がありますので参考にして下さい。 下記の曲線も記載されています。
- Fig. 2 : Permissible body current versus duration curve〔許容人体通過電流/通過時間曲線〕 (Figure 20 from IEC 60479-1)
- Fig. 6 : Touch Voltage〔接触電圧〕および Fig. 7 : Step Voltage〔歩幅電圧〕to IEEE Std. 80、すなわち体重50 kgおよび70 kgに対する事故解除時間0.03 秒~1秒まで変化させた場合の許容Touch Voltage〔接触電圧〕と許容 Step Voltage〔歩幅電圧〕の曲線
(電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)