サイリスタ駆動の電気ヒータとはどのような設備でしょうか。 サイリスタ駆動の電気ヒータの制御方式、用途、特長、ガスタービン発電機などの回転機に与える影響などについて教えて下さい。
サイリスタ駆動のヒータとは、サイリスタを使用して制御されるヒータのことです。 ここでは〔サイリスタ駆動のヒータ〕に関連する用語や制御方式などについて、ご質問の項目に沿って説明します。
1. サイリスタ
サイリスタは、電流の流れを制御するために使用される半導体デバイスです。 P型とN型の半導体を交互に積層した4層構造を持ち、3つの端子(アノード、カソード、ゲート)があります。 ゲート端子に電流を流すことで、アノードとカソード間の導通を制御できます。
サイリスタの動作原理は〔① ゲートに電流が流れていない状態では、オフ状態になり、アノードとカソード間に電圧がかかっても電流は流れない、② ゲートに電流を流すと、オン状態になり、アノードとカソード間で電流が流れ始める、③ 一度オンになると、ゲートからの電流が遮断されても、アノードとカソード間の電流が一定値以下になるまで、オン状態を維持する、④ サイリスタをオフにするには、アノードとカソード間の電流を一定値以下に下げることが必要〕です。 サイリスタを使用した電力制御の例としては、① 照明の調光器 ② 熱源の温度調整 ③ 電動機の速度制御 ④ 直流送電 ⑤ 静止形無効電力補償装置 (SVC) など幅広い分野で用いられており〔サイリスタ駆動のヒータ〕もその一つです。(サイリスタの仕組みや用途については Web Site 上にもたくさん文献がアップロードされていますので、関連する Site をご覧になって下さい。)
2. サイリスタ駆動ヒータ用途および特長
サイリスタ駆動のヒータとは、サイリスタを使用して制御されるヒータのことです。 サイリスタは、電流の流れを制御するために使用される半導体デバイスで、ヒータの温度を正確に管理するために利用されます。 この制御システムは、ヒータの温度を非常に正確に制御することが可能で、産業用ヒータや家庭用暖房器具など、さまざまな用途で利用されています。 この駆動方式は、ノイズの発生を抑えつつ、応答が速く、高精度な温度制御を行うことができるため、電力調整にも適しています。
3. サイリスタ駆動のヒータの制御方式
下図は、サイリスタ駆動電気ヒータの制御方式の概要を表した図です。 サイリスタはゲート電流 Ig を流すとオンになり、逆方向に電圧をかけるとオフになります。 ゲート電流パルスを適切に制御することで、通電時間を制御してヒータ出力を制御し、温度制御を行います。 サイリスタ駆動電気ヒータの制御方式として、Single Cyclic Mode(シングルサイクリックモード)と Burst Firing Mode(バーストファイアリングモード)があり、その主な違いは電力の制御方法です。
Single Cyclic Modeは、サイリスタはAC電源のサイクルごとにオンとオフ(例えば3サイクルオンで、1サイクルオフなど)を切り替えます。 これにより、非常に精密な温度制御が可能になりますが、電磁干渉(EMI : Electromagnetic Interference)が発生し易くなる可能性があります。
Single Cyclic Mode が電磁干渉(EMI)を発生し易い理由は、このモードが周期的な信号を生成し、それがある一定のパターンで繰り返されるためです。 そこで、電磁干渉(EMI)を減少させるためにゼロクロススイッチングを行います。 ゼロクロススイッチングは、交流電源の波形がゼロボルトを通過する瞬間、つまり電圧がゼロになるタイミングでスイッチングを行う技術です。 このタイミングでスイッチングすることにより、スイッチング時に発生するノイズや突入電流を抑制することができます。
Burst Firing Modeは、サイリスタが複数のACサイクルに亘ってオンの状態を維持し、その後で一定期間オフ(例えば10サイクルで10サイクルオフなど)にします。 この方法は、EMI の発生が少なくなりますが、温度制御の精度は Single Cyclic Mode に比べて若干落ちます。 どちらのモードも、サイリスタの特性を利用して電力を制御し、ヒータの温度を調節するために使用され、使用するモードは、必要な制御の精度や許容される EMI のレベルに応じて選ばれます。
4. サイリスタで出力制御される電気ヒータが回転機に与える影響
ガスタービン発電機などの回転機に与える影響は、一般的に電気ヒータの制御システム、すなわちサイリスタに流れる電流の周波数成分と回転機の機械的な固有振動数の共振現象が原因で発生する可能性があります。 共振現象は、制御システムの特定の周波数でシステムの応答が過剰になり、予期しない動作や機器のトリップを引き起こすことがあります。
具体的なトラブル事例については、質疑応答 2024-0294 〔サイリスタ駆動の電気ヒータに共振してガスタービン発電機がトリップした事例〕 をご参照下さい。
(電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)