質疑応答 2024-0290〔電力会社側での地絡事故による需要家側のDGRの不要動作〕の系統図で、電力会社側と需要家側の主電気室の両方にEVT(接地形計器用変成器)があります 。また、主電気室の EVT の CLR を外したとありますが、これはどういうことなのでしょうか? 高圧非接地系統の地絡保護についての技術的検討と高圧受電設備規程との関連について教えて下さい。
ご質問について、下図(質疑応答 2024-0290 の系統図)を基に、技術的な観点と、高圧受電設備規程に基づく検討をしてみます。
技術的な観点からの検討
EVT(接地形計器用変成器)の CLR(制限抵抗)は、地絡電流の有効分を流す役目をしています。 例えば、EVTの電圧比 6600/110/190(V) 、制限抵抗25Ωの場合を例に説明します。
- 6kV系統内で完全地1線絡事故が生じると EVT のブロークンデルタには 190(V)が発生します。
- 電流は、ブロークンデルタと制限抵抗に 190(V)/25(Ω)=6(A)が還流し、1次側の高圧側には 0.38(A)が流れます。 (7.6 x 110/6600 x 3 = 0.38)
- この 0.38(A)が、1つの EVT が流す地絡電流の有効分です。
この系統図のように、電力会社側と需要家側に上記と同じ制限抵抗25Ω付の EVT がある場合、この6.6kV系統の地絡電流(有効分)は、0.38 + 0.38 = 0.76(A)となります。地絡事故の時に流れる地絡電流は、この地絡電流(有効分)と系統の静電容量(ケーブルのキャパシタンスなど)による地絡電流(無効分)とのベクトル和になります。
主電気室の EVT の CLR(制限抵抗)を外すと、この EVT からの地絡電流(有効分)0.38(A)が流れなくなるので、この6.6kV系統の地絡電流(有効分)はこれまでどおり 0.38(A)になります。 EVT の CLR(制限抵抗)を外しても零相電圧は発生しますので、主電気室フィーダの DGR (67G) はこれまでと同じように動作します。 電力会社側の地絡保護設定値に影響を与えることも無く、主電気室の EVT の CLR(制限抵抗)を外すことは、〔技術的観点から言えば問題ない〕と言えます。 ただし、高圧受電設備規程上の問題が残りますので、高圧の需要家が EVT を採用する場合は、電力会社と良く相談して決めて下さい。
高圧受電設備規程による要求事項
JEAC 8011-2020〔高圧受電設備規程〕の〔第2編、第1章、第2130節 の 2〔高圧需要家における地絡保護〕の中に、下記のように記述されています。
① 配電用変電所における地絡保護方式の構成:『… 接地形計器用変圧器 (以下「EVT」という。一般的には高圧母線に1個だけ取り付けられる。)… 』
② 地絡方向継電装置:『… 高圧需要家の受電回路には零相電圧を検出するための EVT(接地形計器用変圧器)は特別の場合を除き設置できない。 これは、一般送配電事業者における配電線の地絡点探査のためのメガリングなどの実施に支障をもたらすためのものである。このため、高圧需要家用としてコンデンサ接地により零相電圧(もしくは電流)を検出することが行われている。 この装置が、零相計器用変圧器(コンデンサ形接地電圧検出装置)である。… 』
従って、上記の系統図のように高圧需要家側の EVT の CLR を外して使用することはもちろん、高圧需要家が EVT を設置することは、〔高圧受電設備規程〕上、特別の場合を除いてできません。
なお、〔高圧受電設備規程〕は〔電気設備技術基準〕を補完する民間の規程として機能しています。 すなわち、〔電気設備技術基準〕は法的な要件を定めており、〔高圧受電設備規程〕はそれを具体化し、実務における適用を容易にするためのものです。
特高で受電している変電所での運用
特高で受電して高圧(例えば 6.6kV)に降圧している系統であれば、高圧系統に EVT が幾つあってもかまいません。 EVT の個数分だけ地絡電流の有効分が流れるので、需要家の判断で、地絡電流の値を考慮に入れて DGR (67G) の設定値を決めれば良いという事になります。 国内の特高需要家の場合、高圧系統(6.6kV系統)に EVT が複数あることが良くあります。 この場合、絶縁抵抗測定の際は EVT を縁切りして(EVT の1次巻線の中性点接地を外して)絶縁抵抗測定を行っています。
高圧受電と特高受電
よく Web Site に〔1つの系統に EVT は1つにすること〕という説明がありますが、これは、高圧で受電している需要家に対して、〔高圧受電設備規程〕の〔第2編、第1章、第2130節 の2 の ① の 『… 接地形計器用変圧器(以下「EVT」という。一般的には高圧母線に1個だけ取り付けられる。)… 』 という規定のことを言っていると思います。
特高で受電し高圧に降圧している需要家の場合は、〔技術的な観点からの検討〕で説明したような検討を行い、高圧系統の地絡保護方式を、EVT 方式にするか、ZPD 方式にするか、あるいは、質疑応答2023-0235〔多重接地による地絡保護継電器の不要動作〕で説明しているように GTR による接地方式(10~30A高抵抗接地方式)とするか、所内電源用変圧器を兼用する方式にするかなど、『需要家の判断で』決めれば良いと言えます。
DGR と EVT について、詳しく(分かり易く)説明している下記の Web Site をご参考にして下さい。
- https://denginoheya.com/encyclopedia/transformer/dgr_evt/ : 配電系統地絡保護〔DGR(地絡方向継電器)とEVT(接地型計器用変圧器)〕(電気技術者の部屋)
- https://jeea.or.jp/course/contents/05204/ : 高圧配電設備の保護について(公益社団法人 日本電気技術者会)
関連する質疑応答(Q&A)
今回のトラブル事例に関連する〔非接地系統の地絡保護〕に関し、これまでに下記の Q&A がアップロードされています。 また〔接地〕および〔地絡〕で検索すると、約60項目 の Q&A を見ることが出来ますので、併せてご参照下さい。
- 2023-0221 非接地系統のEVT接地方式による保護
- 2023-0235 多重接地による地絡保護継電器の不要動作
- 2023-0236 EVT接地がある系統での地絡方向継電器の不要動作
- 2023-0237 1 線地絡事故時の零相電流の流れ(向き)と位相角
- 2024-0290 電力会社側での地絡事故による需要家側のDGRの不要動作
(電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)