バッテリー・エネルギー貯蔵システム(BESS:Battery Energy Storage System)において、どのような作業の時にアークフラッシュ事故が発生するのか、その対応策、直流電源と交流電源それぞれのアークフラッシュの違いなどについて説明して下さい。
アークフラッシュが発生する恐れのある作業
BESS におけるアークフラッシュ事故は、他の電気設備と同様、電気機器の保守・修理時や遮断器の試験・検査時などに発生する恐れがあります。
- 電気機器の保守・修理 : 電気機器の保守・修理中の事故が多い。 ブレーカーが落ちた時に、再度オンする時に発生することもある。
- 遮断器やブレーカーの試験・検査 : 新たに交換した遮断器やブレーカーの試験・検査中の事故が多い。
アークフラッシュ事故に対する対応策
アークフラッシュ事故は人命に影響する問題なので、交流系統および直流系統それぞれ、下記のような対応策を参考に〔生産よりも人命優先で〕慎重な検討が必要です。 作業者は適切な安全手順を遵守し、必要な保護装置を使用することが重要です。
- アークフラッシュ事故対策で最も安全な方法は、電源を切って作業することです。まず、この方法が可能かどうかを検討して下さい。
- 次に安全なのは、短絡電流値そのものを出来るだけ小さくすることです。
- 保護協調を見直して、出来るだけ早く事故点を切り離すようにすることも有効です。事故除去時間(FCT)を短くすれば、事故エネルギーが小さくなります。
- 止むを得ない場合は、危険度の分類に適応した個人用防護具(PPE)を着用して作業することになります。変電所や電気室の中などで、電気屋さんだけが作業するエリアであればこの方法が可能です。 配電盤などの電気設備に、危険度の分類、事故エネルギー、保護境界などの値を記載した〔アークフラッシュラベルの貼付け〕も必要です。
- 生産現場などで一般の作業員もいるようなエリアでは、個人用防護具(PPE)無しで作業できるよう〔危険度の分類を 0(事故エネルギーが2 cal/cm2以下)にする〕ような対応策が必要です。このために、配電盤のフィーダ回路に瞬時動作の MCCB やヒューズを用いて、瞬時で事故点を分離すなどの対策が考えられます。
アークフラッシュ対策については、この Q&A Community でも度々取り上げていますので、質疑応答 2024-0315〔JIS C 4441によるアークフラッシュに関する規定〕の〔関連する質疑応答〕に記載した質疑応答 (Q&A) をご参考にして下さい。
バッテリーは、アークフラッシュが出やすいのか?
バッテリーが直流であることがアークフラッシュの発生を増加するわけではなく、他の電気機器の場合と同様、むしろその管理や取り扱い方法が重要と言えます。 バッテリーはエネルギーを蓄えており、不適切な取り扱いやシステムの故障が原因で短絡が発生すると、そのエネルギーが急速に放出され、アークフラッシュを引き起こす可能性があります。 アークフラッシュは非常に危険な現象であり、発生時には大量のエネルギーが放出され、周囲の物体を破壊したり、火災を引き起こしたりします。 特に高電圧や大電流の設備では、適切な保護措置を講じることが重要です。
直流電源と交流電源、それぞれのアークフラッシュの違いは?
直流電源と交流電源におけるアークフラッシュの違いは、主に電流の流れ方とその影響によります。 直流電源では、電流は常に一定の方向に流れるので、特に電圧が高い場合、遮断の瞬間にはアーク(火花)が発生したり、周囲に感電の危険が発生したりするなどの問題が起こり易くなります。 直流電源の場合、アークが一度発生すると自然に消えにくい傾向があります。
一方、交流電源は、電流は定期的に方向を変わり、電圧がプラスからマイナス、マイナスからプラスに切り替わる際に瞬間的に電圧が 0 になります。 この 0V の瞬間を利用して電源を断つことでアーク(火花)を小さくすることもできます。 交流電源の場合、電流がゼロになる瞬間が周期的に存在するため、直流電源に較べてアークが自然に消え易い傾向があります。 ただし、直流電源でも交流電源でも、アークフラッシュは非常に危険な現象であり、適切な安全対策が必要です。
(電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)