質疑応答 2024-0300〔系統解析の重要性を考える〕の 添付資料:系統解析の重要性(を考える)の中から、第3章、3.2.2項 および 3.2.3項の〔大型回転機軸系のねじり振動解析〕における成功事例について紹介して下さい。
私の 添付資料 : 系統解析の重要性(を考える) の第3章、3.2.2項および3.2.3項の 〔成功事例〕 について説明します。 なお、〔ねじり振動(Torsional vibration)問題の基礎について〕 は、添付資料 : 系統解析の重要性(を考える) の3.2.1項をご参照下さい。
3.2.2 成功事例 2-1
概要 : 誘導電動機で直入れ始動するターボ圧縮機について,電動機の老朽化更新を検討するにあたり、直入れ始動時に誘導電動機が発生する過渡トルク(振動的)が軸系にダメージを与える恐れがあることを圧縮機メーカから指摘され、電気側で対策を行った。(図番および参考文献の番号は、添付資料 : 系統解析の重要性(を考える)と同じ番号にしています)
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誘導電動機を直入れ始動する際には、電源印加とともに電動機の空隙(Air gap)に振動的な過渡トルクが発生します (2)。 この様子を 図10 に示しますが、トルクの振動は電源周波数に等しいとされています。
上記の〔概要〕に記載のように、我々は電動機の老朽化更新を計画したのですが、更新によって電動機の体格が変わり、軸系の固有振動数が更新前後で変化し電源周波数(60Hz)に接近する可能性がある。 これが圧縮機メーカの指摘事項です。 過去の事例からもカップリング破損等が散見されると釘を刺され、我々は下記対応を取りました。
- 誘導電動機の始動は、図11 のようにリアクトルと抵抗器を介する方法を採用しました。 抵抗分が存在すると過渡トルクのピークが減少することを解析で確認しています。
- 図12 は、更新後の電動機出力軸における過渡トルク実測結果です。 十分減衰していることが確認できました。
3.2.3 成功事例 2-2
概要 : 既存のガスタービン駆動ターボ圧縮機を電動機(定格8,400kWのVFD)駆動に転換する計画に対し、圧縮機メーカから、VFDが発生するトルクリップルによって、軸系にダメージが生じる可能性があることを指摘され、現象の理解とともに対策立案を行った。(図番および式番は、添付資料 : 系統解析の重要性(を考える)と同じ番号にしています)
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図5(図8)の大型ターボ圧縮機をガスタービン駆動からVFD(インバータ駆動誘導電動機)駆動に転換する計画が浮上した際に、圧縮機メーカから、図8に示す固有振動数とVFDが発生するトルクリップル(脈動の加振源)が接近すると、カップリング、シャフト、ギヤ(増速機)等が破損するリスクがあるとして、弊社の計画に対しメーカ補償はできないと通告されました。 また、各国で同様のトラブルが発生している事実も確認しました。
電動機に供給する電源に高調波成分が重畳し、または不平衡である場合は電動機の空隙トルクには何らかのリップル分が重畳します。 自励式変換器の場合は、PWM方式により側帯波による次数間高調波によって低い帯域にトルクリップルが発生する可能性があることがわかりました。 圧縮機メーカはこのことを心配しているだと認識し、VFDが発生するトルクリップルを調査し解析で確認しました。
以下、一般的な検討例を紹介します。 キャリア周波数530Hz(大形機であるため周波数は低い)、変調波57Hzの場合に、非同期式3レベルPWM変調を行った場合の電圧波形、並びにその波形と電動機空隙トルクのFFT解析結果を 図13,14 に示します。 図14 の下図のように、低い帯域にリップル成分が表れることは避けなければなりません。 このような結果を得てVFDメーカ側と協議しました。 以上、本件について対策の概要を記載します。
- VFDのPWM方式は同期式を採用し、さらに任意の高調波成分を除去できる変調方式(3)を採用した。これにより,VFD のトルクリップル成分は軸系のねじり固有振動数に接近しないこと、ピーク値も十分小さく設計可能であることを確信しました。
- ガスタービンからVFD駆動に転換した後の試運転では、カップリング部の伝達トルクを測定し、トルクリップルが計画の範囲であることを確認しました。
【参考文献】 (2) 電気学会技術報告第891号「誘導機の過渡現象解析技術」第6章、 (3) パワーエレクトロニクス回路(OHM社ISBN4-274-03545-X C3054)第5章2項
(旭化成株式会社 加戸良英)
事務局より: 回転機のねじり共振について、下記の質疑応答もご参考にして下さい。