鉄道における電力貯蔵について、その目的、その種類、鉄道における蓄電池使用の経緯と現状、電池の充電率、そしてフライホイールポストについて説明します。
1.電力貯蔵の目的
(1) 直流電気鉄道の標準電圧は一般に1500Vで、地下鉄や小規模の線区で750Vまたは600Vが用いられている。 これに対して最低電圧は、JRでは主要線区で1100V、そのほかの線区では900Vとしている。 一方、民鉄では鉄道に関する技術基準の解説に準じて、標準電圧1500Vに対して1000V、750Vに対して500V、600Vに対して400Vとしている。
(2) 特に負荷が多い線区や電源容量が小さい線区で、ラッシュ時に電圧が低下する場合は、軽負荷時にエネルギーを貯蔵して、負荷が多く電圧が低下するときに放出する電力貯蔵装置が用いられる。
(3) 最近の電車は電力変換装置を用いてVVVF制御を行い、停止時に容易に電力回生が行われるようになっている。 直流電気鉄道では、回生電力は他に電力を消費する力行車があれば電力は有効に利用されるが、同一系統に力行車が居ないと回生電力は失効して利用されない。 そこで、回生時に有効利用されない場合は電力エネルギーを電力貯蔵装置に貯蔵して、負荷が多く電圧が低下するときに放出して、電力を有効に利用する省エネルギー対策として用いられる。
2. 鉄道における蓄電池使用の経緯と現状 [1]
鉄道における蓄電池の歴史は古く、1912年に信越線の横川~軽井沢間が上面接触式サードレール方式・直流600Vで開業したのに伴い、電気車の負荷変動に対応するため、丸山と矢ケ埼の2か所の変電所で回転変流機と併せて蓄電池が使用されたのが始まりである。 その後、1914年の直流1200Vによる国鉄京浜線電化により大井町や川崎の変電所で、回転変流機に鉛蓄電池を設けて負荷変動を救済する方式が、電源事情が安定する1926年頃まで使用されている。
また、戦後(第二次世界大戦後)の国鉄では、1979~1983年にかけて、広島県の可部線で昇降圧チョッパと鉛電池を組み合わせたエネルギー貯蔵装置(バッテリーポスト)の研究開発が行われたが、実用化には至らなかった。
自動車では、1997年にトヨタが初代プリウスにニッケル水素電池を採用してハイブリッド車として実用化している。2010年頃から、自動車業界で蓄電池の技術革新が顕著になると、鉄道でも負荷平準化による電圧降下対策や、回生電力を吸収して電力を有効利用する装置、さらに電車の非常時の走行装置として電力貯蔵装置が注目され、導入されるようになった。
図1 は、各種蓄電池のエネルギー密度と出力密度の特性比較であり、これまでの鉛蓄電池に比べて、キャパシタ、リチウムイオン電池(HEV用)およびニッケル水素電池は、急速充放電が可能であることが分かる。 (1) 電気二重層キャパシタンス
電気二重層キャパシタによる本格的な地上用電力貯蔵装置(図2参照)の技術開発が始まったのは、鉄道総研により2000年代になってからで、400V級のミニモデルの試作に始まり、幾つかのフィールド試験を経て、2007年に西武鉄道の正丸峠の変電所で回生車両対策として電力貯蔵装置が導入されている。
(2) リチウムイオン電池
JR西日本で、2000年代に入った頃から、リチウムイオン電池を媒体とした電力貯蔵装置による回生電力の有効利用の検討を始めている。 リチウムイオン電池とIGBTチョッパを組み合わせた電力貯蔵装置が、2006年に北陸本線が長浜から敦賀まで、交流20kVから直流1500Vに変更されたときに、電圧降下対策および回生電力吸収を目的として設置されている。 これは鉄道で初めてリチウムイオン電池が電力貯蔵媒体として利用された例である。 電力貯蔵装置の電力変換装置構成は、電気二重層キャパシタの場合と同様に、チョッパにより降圧してリチウムオン電池を充放電している。 リチウムイオン電池はエネルギー密度が高く、小形軽量で、急速充放電に向けた製品が製作されていることから、鉄道負荷に最適であるとされている。
(3) ニッケル水素電池
ニッケル水素電池は架線に直接接続して、電圧が下れば充電し、上がれば放電するという特性が安定しているので、電力変換装置(コンバータ)を必要としないとされるが、高温充電に向かず、冷房装置を必要とする。 2010年度末に大阪市交通局地下鉄に750Vの電力貯蔵装置が導入され、その後、公営の地下鉄やモノレールで導入されている。 1500Vクラスでは、2016年2月にJR東日本宇都宮線で導入されている。
3.電池の充電率 [2]
電池の充電率(state of charge, SOC)は、蓄電池が完全充電された状態から放電した電気量を除いた割合で示し、残容量とも呼ばれる。 例えば、リチウムイオン電池は充電率を小さくすることで寿命を長くすることが可能で、図3に示すように、SOC 30%以下では放電しにくく、50%以上では充電しにくくするように動作時間を変更して、SOCの幅を制限して、長寿命化を図っている。 (図3&図4)
4.フライホイールポスト
フライホイールポスト(図4参照)は、フライホイールと電動発電機を組み合わせて電気エネルギーを機械エネルギーに変換するもので、軽負荷時にエネルギーを貯蔵して、負荷の多いときに放出する電力貯蔵装置である。 最初のフライホイールポストは、船舶振興会の補助金で京浜急行旧瀬戸変電所に縦軸のフライホイールが設置された。 次いで、1988年に京浜急行電鉄逗子フライホールポストで横軸機が実用化(図4)され、朝夕の通勤時間帯のアシストとして用いられている。 その後、老朽化に伴い、2023年5月に運行を停止している。
参考文献:
[1] 持永芳文・森本大観・林屋 均・清水芳樹・相原 徹・紺谷寛城「座談会 鉄道における蓄電池の可能性」OHM、2019年9月、pp.51-58
[2] 鉄道電気概論(主査 持永芳文)「電力品質改善装置―電力用コンデンサと電力変換装置―」日本鉄道電気技術協会、令和3年4月、pp.66-73
(持永芳文 記)