「系統解析業務に係って40年、 いま振り返ると」というテーマで、壹岐浩幸さんに40年間の貴重なご経験、若いエンジニアの方に伝えておきたいことなど、系統解析でのエピソード(経験談)についてお話しして頂くことになりました。 先ず、第1章として「系統解析業務を始めた頃」について、当時の技術状況も含めて説明して下さい。
系統解析の仕事を約40年近く電機メーカーで部署は点々としましたが、業務内容は変わらず行ってきました。定年後も業務は継続中。 ここに書く内容は、経験上思いつくままに(多少偏見があるかも知れませんが)書きたいと思います。
入社時は、電気工学なんぞ全く知識はなく、ただ電気回路は大学で教わった程度でした。 専門は制御工学で、系統解析業務と聞かされても 「何それ」 で全くチンプンカンプンの中でスタートしました。 ですから、系統解析は ??? だらけで、先輩などは系統解析をプロのごとく仕事していて、どうすればここを打開できるか解らず仕事をしていました。 それが今は系統解析で博士号を頂いているわけで、いまだ驚きを隠せません。
当時を振り返ると、電気回路の交流と直流の違いをきちんと知らない、計算機シミュレーションするためのプログラムを構築する言語と数値解析手法を知らない、電力機器(例えば、発電所、変電所、送電線、産業用負荷、etc.)を知らない、そんな中どのように電気の専門知識を高めていくか大変でした。 ほんと、知らないだらけでした。
系統解析超初心者がこの解析技術を理解していくには、専門的知識を持つ人に聞くしかないと一大決心、徹底的に解析プロの先輩を捕まえて聞きまくりました。 先輩に相当に嫌われましたが … 。 でもこの方法しかなく、いきなり専門書、文献を読んでも高度でまったく理解できません。 入社してから5~6年目までは、結局、解析プロの先輩の指導の下で専門知識を高めるのが一番早かったと思います。 日本の学者が書いた電気関連の工学書はほんと理解しにくく、よっぽど、海外の工学専門書のほうが丁寧に説明されており、英語が苦手でも理解しやすかった。
その頃、系統解析の技量が急激につき始めたなと感じたのは、米国ボンネビル電力庁(BPA)が開発した初期の電磁過渡現象用プログラム(EMTP)を知ってからです。 このプログラムの特長を語ると長くなるので止めときますが、英語のマニュアルと日本語翻訳マニュアル(当時東大が訳した)を基に学習しました。 始めは雷サージの計算方法でした。 ここでは、単相線路モデルを扱うため集中定数モデルと分布定数モデルの違いについて明確に理解しなければいけません。 集中定数モデルでは抵抗、インダクタンス、キャパシタンス、分布定数モデルではサージインピーダンス、伝搬速度を扱った数値演算技法です。 この当時の雷サージ計算が、系統解析技術の基本を知る始まりでした。
次章から、長年の系統解析業務から習得した各解析技術の一端を説明したいと思います。 主に解析ソフト(EMTP、ETAP、etc.)を用いた解析項目について、① 今回の「系統解析業務を始めた頃」に続いて、② 雷サージ計算、③ 変圧器励磁突入電流計算、④ 電力系統過渡安定度に関連した計算、⑤ 高調波に関連した計算、➅ 系統解析は奥が深すぎて、➆ トラブルから学んだ解析技術、について説明します。
(壹岐 浩幸 記)