ビル、工場、プラント、一般家屋、風力発電システム、太陽光発電システム、電波塔など、各種設備で発生する雷撃による被害の様相と雷対策および雷保護について説明して下さい。
ここでは、ビルの上下階フロア間の電位差など,高層ビル特有の対策事例を中心に説明する。
1. 雷サージの侵入経路
雷サージが侵入する経路は 図1 に示すように電源線,通信線,受雷部・アンテナ,接地線の4方向およびその複合経路の5通りがある。
2. 直撃雷電流の逆流による被害と対策
ビル等の建築物においては,直撃雷に対する雷保護の設計が必要となる。図2 に示すように,受雷部に直撃雷を受けると,雷電流は引下げ導体や構造体に流れ,接地極により大地に流出する。このとき,建造物の接地電位が上昇する。その結果,建造物に引き込まれている配電線や通信線に接地極側から雷電流が逆流し,建物内の電気機器の誤動作や破損が発生する。このため,電気機器を保護するために,それぞれの引込口には SPD を設置し,直撃雷の分流成分を電源線や通信線に流出させる対策が必要となる。
3. ビルの上下階フロア間の電位差による被害と対策
屋上にある受雷部(避雷針)は,構造体や引下げ導線を利用し,接地システムを構築する。直撃雷を受けると,雷電流は鉄骨や鉄筋,引下げ導線を流れ接地極に流れる。このとき,鉄骨,鉄筋,引下げ導線のインピーダンスにより上下階のフロア間に電差が生じ,この電位差により機器が故障,誤動作することがある。図3 に示すように,上層フロアと下層フロアに通信線を有する機器などを設置した場合,この上下層のフロア間の電位差が機器の耐圧以上になると,機器は破損する。そのため,図4 に示すように各フロアの分電盤や通信・制御線には,それぞれ SPD を設置することが必要となる。 図5 は,20階建てビルにおける具体的な雷対策例である。
この事例は,JIS に基づいて雷保護レベル Ⅳ(100 kA)で設計することとし,「B種接地」,「弱電機器接地」は単独接地としている。建物から外部に接続された電線は6.6 kVの引込み線だけで,通信線等は光ケーブルになっている。ここでは,次のように,雷保護ゾーンの境界となる箇所に避雷器,および SPD を設置する。
- 高圧引込み口:公称電圧6 kV用の公称放電電流5 kAの断路機構付き避雷器を設置
- 各フロアの分電盤:クラス Ⅱ SPD(In = 10 kA)
- キュービクルトランス2次側:クラス Ⅰ SPD(Iimp = 25 kA)
- B種接地とD種接地間:接地間用 SPD(Iimp = 25 kA)
- 弱電機器接地とD種接地間:接地間用 SPD(Iimp = 25 kA)
- 建物内部のフロア間に接続される各種信号線:通信・信号用 SPD のカテゴリー C2/D1 を設置
注意点として,プラントの警報接点出力や工場の監視カメラなど SPD と被防護機器が10 m以上離れている場合,配線や保護機器が有するキャパシタンスや配線のインダクタンスの共振により被保護機器に振動形の過電圧が発生し制限された電圧よりも大きな電圧が保護機器に印可されるため,被保護機器の近くに SPD を設置する必要がある。
詳細は「SPD・避雷器と耐雷トランスを用いた雷保護」オーム社(2015−6)に記載されているのでご参照下さい。
(中部大学 教授 山本和男 記)