ビル、工場、プラント、一般家屋、風力発電システム、太陽光発電システム、電波塔などの各種設備に対する接地極の適用例、およびそれぞれの接地特性について紹介して下さい。
ここでは、ビル、一般家屋、風力発電システム、太陽光発電システム、電波塔に対する接地極の適用例、および接地特性について紹介して下さい。
1. ビル
20×20×20 mのビルに雷撃があった場合の特性を例に示します。図1 にビルのモデル図を示します。
ビルには,地耐力を増すために基礎杭(このビルの場合は長さ15 m,半径0.5 mの杭が8本)がビルの基礎に接続されています。これらの基礎の内部には鉄筋が細かく張り巡らされていて,雷撃があった場合ビル構造体である鉄骨やダウンコンダクタから基礎に雷電流が流れ込み大地に放流されます。このように鉄筋コンクリートなどでできた基礎や基礎杭は良好な接地物となります。
2. 一般家屋
一般家屋の場合,基礎が雷撃電流を放出するための接地極として利用されることはあまりありません。その代わりに家屋内の分電盤の接地として別途 D種接地 が設けられています(棒電極を敷地内に埋設した接地極)。接地工事の種類を 表1 に示します。
配電系統から入り込んでくる雷電流は,分電盤に設置された SPD を介して,この D種接地 に放流される仕組みになっています(しかし現状ではこの種の SPD が雷対策に設置されている家屋は多くない)。ただし,木造ではなく,重・軽量鉄骨等の金属導体で家屋の主構造が構築されている場合は,その構造体に雷撃があった場合の雷電流をスムーズに大地に放流できるように,ビル同様の基礎や基礎杭を含めた接地極を構成することが勧められています。
3. 風力発電システム
既存の風車の接地システムの形状は様々で,図2 に示すように基礎や基礎杭のほか,環状接地線,埋設地線,接地プレート,棒電極など様々な接地極が基礎の周囲に接続されています。
鉄筋コンクリート基礎や基礎杭も良好な接地物として機能するため,その直近に敷設された環状接地極や導体板,棒電極では大きく改善させることはできません。基礎のみの場合の接地特性とその近傍に環状接地線,導体板を付加した場合では電位上昇特性に大きな差異は現れません。しかし,基礎近傍だけでなく基礎から離れる方向に 図2(C) で示すような埋設地線を付加すれば,波頭部,波尾部の両方で電位上昇特性を改善することができます。
流入する雷電流の波頭長や大地抵抗率に依存して,基礎周辺に負荷する接地線の効果も変わっていくため,接地設計の際には,数値電磁界解析手法等を用いて,事前にその効果を把握することが最も有効です。
4. 太陽光発電システム
近年,MWクラスの大規模太陽光発電システムが増え,日本の多くの場所で発電を開始しています。このような大規模太陽光発電システムは,影をつくらないよう周囲の高い建物がない場所に建設されるため,雷撃の対象になることも少なくありません [1]。
パネルに雷撃があった場合には,パネルが数枚破損することはありますがこの種の事故はそれほど大きな被害とはなりません。雷電流の一部がアレイとパワーコンディショナ(PCS:power Conditioning System)を結ぶ直流配線に侵入し,その先にある高価なPCSを破損させるとその被害を甚大となります。そのためこのような事故を防ぐ対策を取らなければなりません。PCS を雷から保護するため,その低圧側や高圧側には,SPD や避雷器が設置されています。
太陽光発電設備の架台には,近年様々なものが利用されています。金属製の架台では大地に金属製架台の足が埋め込まれているものもあり,それが接地極として機能します。鉄筋コンクリート製の架台を地上に並べ,その上に太陽光パネルを固定する発電所もあり,このような場合は,雷撃の可能性が最も高いモジュールフレームと大地の間の接続が十分でない(雷撃点から接地システムまでの抵抗が大きい)場合が多く,バット埋設した接地極に引下げ導線を用いて接続しなければなりません。
5. 電波塔
携帯基地局に落雷があると,その接地システムの電位が上昇し,配電系統から施設内に引き込まれている100 V/200 Vの電力線に雷電流の一部が逆流することがあります。その電流は配電線を経由して近隣の一般家屋の中に侵入し,様々な家電製品を故障させることがあるため,その対策が必要とされている(図3参照)。特に,高い建物に雷撃が集中する傾向のある冬機雷地域では,この種の事故が数多く発生していて,早急な対策が必要とされている場所も少なくない [2]。
このような事故を防ぐために雷電流が携帯基礎局の接地システムに流れ込むことにより,発生する電位上昇を抑制する手法が提案されるようになっています。この手法は深埋設絶縁独立接地 [3] といい,雷電流を絶縁導体で地中深くまで導き,先端部の裸導線から大地に放出する手法であり,もうすでに数多くの携帯基地局で採用されるようになっています。
(参考文献)
[1] 「太陽光発電システム 雷害の状況・被害低減対策技術の分析・評価などに係割る業務」,NEDO(2009-11)
[2] 東北地方冬季雷害様相調査検討委員会:「東北地方の冬季雷被害に関する調査報告(2010年10月~ 2013年8月)」 (社)電気設備学会東北支部(2013-10)
[3] 山本和男・柳川俊一・関岡昇三:「深埋設独立接地とメッシュ接地のかと特性に関する実験的検討」,電気学会論文誌B,Vol.132,No.5,pp.500-506(2012-5)
詳細は「SPD・避雷器と耐雷トランスを用いた雷保護」オーム社(2015−6)に記載されているのでご参照下さい。
(中部大学 教授 山本和男 記)