通信・信号用SPDを設置するにあたり、その設置場所、設置方法、接地線の取り扱い、適用事例、保守・管理方法など、検討すべき事項および注意すべき点についての概要を教えて下さい。
通信・信号用 SPD の設置方法は,電源用 SPD と同様の考え方ですが,直撃雷の分流通過を想定したカテゴリー D1 の要求を満たすものが主流であるため,回線種別に対応したものを通信用 SPD 盤に集約して設置することが望ましいですが,設備形態によってはそれぞれの被防護機器の直近に設置することも有効です。
通信・信号用 SPD の適用事例について,主な回路種別ごとに4つ紹介します。
1. 電話回線
まず,1つ目は電話回線です。工場やビルなどの構内に設置する通信システムでは,多対回線用の SPD として,ユニット化した電話回線用 SPD が主流です。基本的に,一般電話回線,ISDN 回線,ADSL 回線などの通信回線に発生する雷過電圧から機器を保護するために設置され,設備環境上,電力線の混色事故に対応可能な電流制限機能を有するものもあります。近年の情報伝搬の高速化により,VDSL に対する挿入損失を極力低減するような仕組みとなっています。なお,最新の SPD は省スペースのニーズに対応して高密度端子に取り付けることが可能であり,個々の SPD が故障表示の機能を有しているため保守性が高くなっています。電話回線用 SPD の適用事例を図1に示します。
2. 信号回線
次に,信号回線です。信号回線では,設置回路,警報回路,各種センサの信号回路,計測信号の直流電流回路などの対象回路が,多種多様で,かつ適応回路電圧・電流,周波数等の条件も様々です。これらの信号回線は,一般的に回路長が長く,その途中で雷過電圧が侵入する場合も多いです。その結果,雷過電圧は両端末の機器に印可されることになるため,両端末機器の線路側に SPD を設置することになります。特に工場の自動化生産整備では,落雷による運用停止を避けるため,制御通信回線,計装回線に SPD が設置されます。制御通信,計装回線は多種多様な電圧電流信号を伝送するため,必然的に SPD も多機種存在し,制御通信においては RS485 の伝送方式を,また計装回線においては4mA~20mAの電流信号対象とした SPD の要求が多いです。信号回線用 SPD の適用事例を,図2に示します。
3. LAN回線
次に,LAN 回線です。LAN 回線では,基本的に SPD を HUB,機器間の両端に設置する。イーサネット LAN の普及により,ローカルの情報機器のほとんどはイーサネットによる通信が一般的となっています。 イーサネット LAN はツイストペアを使用した伝送方式のため,外来ノイズ耐性は比較的高いが,その反面,接続機器が多く敷設されたケーブルに雷サージが誘導して重要機器が雷害を被ることも少なくない。このような背景から,イーサネット回路用 SPD の必要性が高まっています。LAN 回路用の適用事例を図3に示します。
4. ITV,同軸ケーブル回線
最後に ITV,同軸ケーブル回線です。監視カメラシステムには,伝送信号に直流を重畳しているシステムと,伝送信号と直流給電を別にしているシステムがあります。監視カメラシステムでは,SPD を監視室のモニタのみに設置し,監視カメラ側には設置していないことがあり,監視カメラが雷被害を受ける例が多いです。直流重畳のシステムには直流重畳対応の SPD を,それぞれ監視室モニタ側と監視カメラ側双方に設置します。ITV,同軸ケーブル回線用 SPD の適用事例を図4に示します。
詳細は「SPD・避雷器と耐雷トランスを用いた雷保護」オーム社(2015−6)に記載されているのでご参照下さい。
(中部大学 教授 山本和男 記)