スマートグリッ ド (Smart Grid)の目的,スマートグリッド技術に関連する用語の意味(① スマートグリッドとは? ② マイクログリッドとは? ③ 系統連系とは? ④ 逆潮流とは?)などについて教えて下さい。 スマートグリッド(マイクログリッド)技術全体を図解して頂くことは可能でしょうか?
1. スマートグリッ ド(Smart Grid)の目的 (文献 [1] より抜粋して引用)
電力系統では,瞬時々々の発電量(供給)と消費量(需要)をマッチングさせなければなりません。消費量に対して発電量が少なかったり,逆に多かったりすると電力系統は不安定な状態となり,最悪の場合には,停電に至ってしまう可能性があります。近年では,脱炭素社会の構築に向けて,需要サイドに太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーによる電源が,電力系統に多く連系されるようになってきていますが,これらの電源は,天候によって出力が左右されるという特徴を有しているため,需要と供給の同時同量を維持することが難しくなるほか,電力の流れが変わるため,従来の設計思想になかった現象が顕在化してくることが考えられます。
このような背景から,現在の電力系統をさらに賢い電力系統に進化させる必要性が強まってきています。その達成には,電力系統に接続される多種多様な機器を総合的に制御することが不可欠であり,情報通信技術を活用して,相互に連係を図りながら,全体最適を目指すことが求められます。
2. スマートグリッド技術に関連する用語の意味
① スマートグリッドとは?
世界で統一されたスマートグリッドの明確な定義はないが,「従来からの集中型電源と送電系統の一体運用に加え,情報通信技術の活用により,太陽光発電などの分散形電源や需要家の情報を統合・活用して,高効率,高品質,高信頼度の電力供給システムの実現を目指すもの」という点は,共通の概念として捉えられています [1]。
② マイクログリッドとは? (文献 [2] より抜粋して引用)
マイクログリッドは,1999年に米国のCERTS(The Consortium for Electric Reliability Technology Solutions:電力供給信頼性対策連合)によって提唱された,地域分散エネルギー制御構想のことです。分散型エネルギーソース,電力貯蔵システム,電力負荷をネット―ワークにより構成することで,電力系統から独立して運用することが可能となります。さらに,電力系統や他のマイクログリッドとの連携を図ることで,再生可能エネルギーが持つ変動を補償することを目的とすることがあります。
需給バランスの調整機能,供給電力の品質保証(電圧,周波数,各種変動など)の可能性などから,注目を集めていますが,規模や形態などまだ厳密に定義されておらず,供給能力も数十kWから数MWまで,離島などでの電極供給から,自然変動の大きな再生可能エネルギーの大量導入を目的のするものなど多様な状況でなっています。
マイクログリッド導入の意義は,(1)自然変動電源の不安定性を低減し再生可能エネルギーの導入を促進する,(2)電源の分散設置や自立運転によるセキュリティの向上,(3)離島や未電化地域などでの電力供給体制の整備,(4)新たなビジネスチャンスとしての地域振興効果など,さまざまなものがあります。
③ 系統連系とは?
分散電源を電力系統に連系することを系統連系と言います(図1)。一般家庭などで太陽光発電システムを設置する場合,昼間の太陽光発電システムによる発電がある時間帯は,その電力を利用できますが,雨天時や夜間など,太陽光発電の出力が得られないときに,電力系統から電力の供給を受けます。これにより,一般家庭に設置する蓄電池を無くしたり,必要な容量を削減したりすることができます。
このような分散形電源を電力系統に連系して発電した電力を電力会社へ売電するにあたっては,分散電源の設置者と電力会社との間では,電力品質(電圧や周波数)や,公衆,作業員の保安(感電)維持を目的に,系統連系技術要件ガイドラインや電気設備の技術機銃の解釈に基づいて連系協議を行う必要があります。そして,連系技術要件を満足するため,系統連系保護継電装置などの設置が必要となります。これらを詳しく解説したのが,「系統連系規定(日本電気協会)」で,わが国の標準的な連系協議資料とされています [3]。
④ 逆潮流とは?
通常の電力系統では,電力会社の発電所から送電線,配電線を介して需要家に電力が供給されるが,③ のように,需要サイドに太陽光発電などの電源が大量に電力系統に連系されると,需要家での消費電力よりも発電量の方が多くなる場合があります。このとき,この余剰電力は,通常の電力の流れの向きとは逆向きになり,これを逆潮流と言います。
3. スマートグリッド (マイクログリッド) 技術全体を図解
スマートグリッドは,大きく次の5つの要素から構成されます [4]。
➀ 双方向の電力・情報通信ネットワークと需給システム
② 期間電力系統に接続される大規模な自然エネルギー利用型電源
③ 需要家地域システム(マイクログリッドなど)
④ オンサイト型電源(需要家側に設置される電源)を含む需要家側システム
⑤ 新しい配電ネットワーク
すなわち,図2のように,需要家側に設置される太陽光発電や燃料電池などのエネルギー供給祠宇ステムや定置用蓄電池や電気自動車の蓄電池など,エネルギー貯蔵システムを最適に制御します。それを担うのが,HEMS (Home Energy Management System) やBEMS (Building Energy Management System) などのエネルギーマネジメントシステムです。これにより,需要家での省エネルギーだけでなく,電力系統の安定運用への貢献が期待されます [4]。
そして,地域の中の複数のスマートハウスやスマートビルディングのエネルギーマネジメントシステム(HEMSやBEMSなど)と連携して,地域全体のエネルギーを管理するのが,CEMS(Community EMSまたはCluster EMS)と呼ばれるエネルギーマネジメントシステムです(図3)。地域内の蓄電池の充放電制御により,コミュニティ内の電力を平準化したり,災害時等には,コミュニティの内の蓄電池の電力を用いて,セキュリティのための設備や照明に電力を供給したりすることができます。さらに,コミュニティとして,都市全体の熱と電力を含めたエネルギー管理や交通システムとの連携,情報通信による利便性の向上などを狙った検討も行われています [4]。
そして,地域間で連携し,メガソーラーやウインドファームなどの大規模な再生可能エネルギー利用電源と協調して,高効率,根品質,高信頼度な電力供給システムの実現を目指します(図4)。
(参考文献)
[1] スマートグリッド実現に向けた電力系統技術調査専門委員会 編:「スマートグリッドを支える電力システム技術」,電気学会
[2] 一般財団法人環境イノベーション情報機構 環境用語 マイクログリッド
https://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=4528
[3] 江間,甲斐:「電力工学(改訂版)」,コロナ社
[4] 合田,諸住 監修:「スマートグリッド教科書」,インプレスジャパン
(名古屋工業大学 准教授 青木 睦 記)