産業界で多く使用されている油入変圧器について、オーナーエンジニア(産業用電気設備で働くエンジニア)としての定期点検における設備維持管理の勘所(必要な知識、心構えなど)について紹介する。
変圧器の一般的な点検項目には、「外観点検」「絶縁抵抗測定」「絶縁油分析」などがある。変圧器の保守点検については、質問番号2021-0115 「産業用電気設備の保守点検」の 第2章「油入変圧器編」を参照する(石油学会規格:JPI-8S-4 電気設備持規格による説明)、変圧器メーカーや分析会社などの見解を確認するなどして総合的に判断して下さい。
変圧器の外観点検や絶縁抵抗測定などは、他の電気設備(高圧配電盤や電動機など)と概ね同様と考えられるため、ここでは変圧器特有の 「絶縁油分析」 について紹介する。
絶縁油分析には、主に ① 一般分析 ② 油中ガス分析 ③ フルフラール分析 の3種類の分析項目が一般的であり、それぞれ目的が異なる。ここでは、それぞれの分析項目についての 目的、概要、対応方法(例)について説明する。
1. 一般分析
➀ 目的と概要
- 変圧器本体の劣化を示す指標ではなく、絶縁油の劣化を判断するための分析
- 主な分析項目は、全酸価、耐電圧試験、水分測定など
② 対応方法(例)
- 傾向監視(分析周期の短縮などを考慮)と絶縁油の交換
③ 注意ポイント
- 絶縁油サンプリング時に水分が混入する可能性がある。
- その場合、水分量が多くなり耐電圧性能を低下させる可能性がある。
- 縁油の劣化ではない可能性もあり、再サンプリングの上、再測定を計画することを推奨する。
2. 油中ガス分析
① 目的と概要
- 変圧器の内部異常を確認する。
- 分析対象ガスは、一酸化炭素 (CO), 水素 (H2), メタン (CH4), アセチレン (C2H2), エチレン (C2H4), エタン (C2H6) や 酸素 (O2), 窒素 (N2), 二酸化炭素 (CO2) などがあり、可燃性ガスの総和 (TCG) なども分析結果として得られる。
- ここでは、勘所が主旨なので、主にアセチレンとエチレンを中心に紹介する。
- 主な異常は、変圧器内部の過熱と部分放電の発生の有無である。
② 対応方法(例)
- 通常、アセチレンが発生した場合、変圧器内部に部分放電が発生したことを示す。(エチレンは過熱を疑う)
- 数値によっては、直ちに変圧器を停止させることも必要である。(部分放電が急増すると内部爆発に発展する可能性有)
- アセチレンの数値が低い場合や過熱異常が疑われる場合は、傾向監視を継続しつつ計画的な変圧器更新を推奨する。
③ 注意ポイント
- 当該分析結果、異常を覚知した場合、臨時分析を計画し異常が継続している可能性があるかを確認することが重要である。
- 絶縁油は非常に物性的にも絶縁的にも安定した物質であり、過去何らかの原因(例:耐電圧試験や局部過熱)により一時的に発生したときのガスも滞在する特徴を利用した分析方法。
- 過熱と部分放電では、異常エネルギーに差がある。従って、部分放電発生時には安定している絶縁油の炭素化合物をアセチレン分子まで分解させるエネルギーを持つ。この部分放電が継続すると内部短絡(内部爆発)に発展する可能性有。
- 過熱は、部分放電程致命的な異常ではないが、何も対応しなければ、過熱部がさらに高温化し部分放電や相当の異常に発展する可能性がある。
3. フルフラール分析
➀ 目的と概要
- 変圧器の総合的な寿命評価
② 対応方法(例)
- 寿命年までに計画的な更新を検討する。
③ 注意ポイント
- 寿命評価が目的であることから、一般的には新しい変圧器には当該分析項目は不要である。
- 例えばではあるが、設置後20年を超えた変圧器を対象に分析することを推奨する。
4. その他
- 巡回点検や絶縁油サンプリングにより変圧器のオイルレベルが低下し、補充した場合は、絶縁油分析会社へその旨を連絡する。次回、分析時の結果をチューニング(反映)する必要がある。
- PCB含有の有無は、メーカーヒアリングや分析などにより原則全数確認する必要がある。
- 放電パターン(ガスパターン)により異常の種類やレベルも推定可能である。
5. まとめ
以上より、絶縁油分析についての 分析項目、目的、対応方法を 表1 にまとめた。
(産業用電気設備関係の方からの回答です)
Kameda Kazuyuki Edited answer