電気エネルギーを他の形態に変換して蓄積しておくためのエネルギー貯蔵技術について、エネルギー貯蔵の必要性、貯蔵するエネルギーの形態、エネルギー貯蔵方法(電力網におけるエネルギー貯蔵、再生可能エネルギーの貯蔵)について説明して下さい。
1. エネルギー貯蔵の必要性
電力系統では,時々刻々変化する需要に合わせて発電量を調整する必要があります。このため,太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの増加に伴い,その発電量が多くなると,火力発電などの出力を抑制する必要があります(図1)。 しかし,このような調整可能な電源の出力を抑制しても発電電力が上回る場合,その余った発電電力は,余剰電力となります。
また,太陽光発電や風力発電などの発電電力は,天候に左右されるため,気象条件によっては,発電電力の変動が大きくなります。 しかし,このような再生可能エネルギーからの発電電力の増加に伴い,調整可能な火力発電の出力が低下すると,このような変動に対応することが難しくなります。
このように,再生可能エネルギー電源の増加に伴い,余剰電力対策や出力変動への対応などが課題となります。これに対応するために,エネルギー貯蔵システムの重要性が高くなっています。
2. 貯蔵するエネルギーの形態
文献 [1] によると,主な電力貯蔵技術として,蓄電池,揚水式水力,水素化,圧縮空気貯蔵,液化空気貯蔵,フライホイール,超伝導電力貯蔵,電気二重層キャパシタなどがあります。
揚水式水力発電は,上池と下池との間において,電力余剰時には,上池に水を汲み上げて位置エネルギーとして貯蔵し,電力不足時には,下池に水を落として発電するものです。他の電力貯蔵技術と比べて容量が大きく,実際の電力系統の運用に用いられていますが,エネルギー貯蔵から利用までの効率が低いことと,日本国内において,適切な地点が少ないことから,新規の開発が難しいなどの課題があります。
3. エネルギー貯蔵方法 (電力網におけるエネルギー貯蔵、再生可能エネルギーの貯蔵)
再生可能エネルギー電源の導入拡大に伴い,電力系統における蓄電池の活用に期待が高まっています。蓄電池には,ナトリウム硫黄電池,レドックスフロー電池,ニッケル水素電池,リチウムイオン電池,鉛蓄電池などがあります。これらの蓄電池には,エネルギー密度や応答速度などで一長一短があり,目的に応じて,最適な蓄電池の導入が検討されています。
中でも電力系統用として,ナトリウム硫黄電池やリチウムイオン蓄電池の実証試験などが行われています [2]。リチウムイオン電池は,他の蓄電池に比べてエネルギー密度が高く,高出力にも対応することができます。ナトリウム硫黄デントには,比較的エネルギー密度が高く,容量あたりの価格が安価ですが,動作時に昇温する必要があります。また,レドックスフロー蓄電池は,バナジウムなどのイオンの酸化還元反応を利用したもので,サイクル寿命が長いことが特徴です。レドックスフロー電池によるマイクログリッド構築の事例もあります [3]。
そのほかに,再生可能エネルギーの電力によって水を電気分解し,水素としてエネルギー貯蔵する技術があります(「Power to Gas」と呼ばれる)。水素は,高圧ガス,液化水素,有機ハイドライドなどにより,輸送や貯蔵を行うことが検討されています [4]。
(参考文献)
[1] NEDO 技術戦略研究センターレポート「電力貯蔵分野の技術戦略策定に向けて」 https://www.nedo.go.jp/content/100866310.pdf
[2] 電気学会技術報告:「電力系統における蓄電池利用・制御技術」,第1403号,2017年
[3] NEDO「日米初の蓄電池による実配電網でのマイクログリッド構築・運用に成功」 https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101508.html
[4] 経済産業省 第25回 水素・燃料電池戦略協議会資料:「今後の水素政策の課題と対応の方向性中間整理(案)」 https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/suiso_nenryo/pdf/025_01_00.pdf
(名古屋工業大学 准教授 青木 睦 記)