下図のように、非常用電源~商用電源間の電源切替えにダブルスローSW(双方向切替SW)を用いています。ダブルスローSWは、切替時間100msec程度で、位相のズレが少なく、負荷を停止しないで切替えできると思っていました。ところが、非常用電源から商用電源側に切替時に商用電源側のMCCB:800AF(瞬時トリップ電流値8000A)がトリップするトラブルが発生しました。 状況は下記のとおりです。
- ダブルスローSWの仕様は、定格電流1000A、短時間電流12kA(1秒間)、AC4級開極時間(極間アーク発生):35msec、切換時間(指令・表示):120msecです。
- 負荷電流25Aの時に切替えた際にはトリップすることなく切替えは成功した。
- 空調負荷(電動機負荷:85A)を動かして負荷電流110Aの時に切替した時にMCBがトリップした。
- 負荷が残留電圧の少ないCVCFや直流電源の場合、負荷電流が25A程度ならばトリップすることなく切替えることができます。
このように空調負荷を切換えた時に、商用電源側のMCCBがトリップする原因としてどのようなことが考えられるでしょうか?
ダブルスローSWは、「定格電流(この場合1000A)、短時間電流(12kA,1秒間)以内であれば、開極時間35msecで極間アークが消失するので、切替時間120msecで切替えれば安全に切替えできる」ものと理解します。この性能について、先ずメーカーに確認するのが良いと思います <補足説明1>。
その上でトラブルの原因を考えると、切替時にMCCBの瞬時トリップ電流値8,000A(負荷電流110Aの72倍)以上の電流が流れることは、残留電圧や位相のズレだけでは説明できないので、切替え時に極間アークによって線間短絡事故(2極または3極が瞬間的(数十msecか?)に繋がる)ような現象が生じていたのではないかと思われます <補足説明2および3>。
このような現象が生じる原因として、SWがコンパクト設計になり極間距離が小さくなっていること、SWのスプリングなどの不良による開極時間の遅れや各極間の動作のバラツキなどが考えられます。 念のため、商用電源側のMCCBの瞬時引外し特性の設定値および動作の確認も必要です。 対応策としては、➀ メーカーにSWの性能についての確認、② 必要に応じて、分解点検、③ 動作確認テスト、④などの実施が必要と思われます。 このテーマは、残留電圧や位相のズレ極間アークによる線間短絡事故(2極または3極が瞬間的)、接点やスプリングのダメージ、機器の動作不良、などを含む幅広いテーマだと思います。 本件について、他の方からも沢山のコメントを頂いていますので、それらを「補足説明」 として記載します。 いろいろな原因が考えられる思いますので、ご参考にして下さい。
(電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)
補足説明1 : 私も上記の Answer と同様の感覚です。 誘導電動機の残留電圧と電源電圧の位相ズレでは説明しにくいと考えます。 このようなケースでは電動機定格の10倍以上の電流が瞬時流れることになりますが、事例ではオーダーが異なります。しかしながら、この事例のようにダブルスローによる切替を安易に行うことは抵抗があり、あまりお勧めしません。
補足説明2 : ダブルスローSWの装置確認は、Answer の説明のように進めると良い考えます。 なお、残留電圧や位相のズレだけでは説明できないのでと書いてありますが、一応確認してみると、以下のようになります。 切替時にMCCBの瞬時トリップ電流値8,000A相当が流れることから、切替時に電圧位相ズレに伴い電源側と非同期投入と仮定すると、非常用発電機から線間(2相)短絡電流が流れ、500kVAで (Xd“+Xd‘)/2=14.5% から3相短絡電流は (DC分ほぼ100%重畳)で4,977ⅹ2=9,954(A)、2相短絡電流とすると(√3/2)を掛けると8,620(A)相当となります。 一応、この考え方あるかなあと思います。 上記の計算のように、非常用発電機500kVA、電動機負荷と商用電源の電圧異相ズレにより極間アークによる線間(2相)短絡が生じた場合、短絡電流が8,000Aを少し超えます。 しかし、これは8,000A~10,000A程度なのでダブルスローSWの耐量(12kA+1秒間)内です。 また、これが3相短絡アークへ進展していた場合、商用電源側から短絡電流30,000Aが流れます。 これまで、MCCB:800A(遮断能力50,000A)で数回OFFしていたとすればダブルスローの点検が必要です。
補足説明3 : 誘導電動機の残留電圧がある場合の非同期投入(リクローズ)では,残留電圧と電源電圧の位相差が180°近辺であれば誘導電動機の10pu程度以上の電流が流れることが分っています。 空調設備用誘導電動機の定格電流が100A程度と仮定した場合,リクローズ時の電流が8,000Aに近づく可能性は考えられないと思います。 電気学会技術資料・ものづくり研究会:MZK-14-002「大型化学プラントにおける瞬時電圧低下の影響と対策」の Fig.10 : Reclosing current and torque (6.6kV 1,500kW Fan) 参照ください。
補足説明4 : モータ台数が不明、空調機なのでモータはインバータ機器と考えられる等の疑問が多く、この点及びインバータの場合の主電源断時のトリップシステムも含めて確認して頂くことは可能でしょうか。 今は、空調モータはコンプレッサモータなので被駆動機は高トルクのため、回転低下が早く残留磁束による逆位相投入で瞬時の波形の乱れから、エネルギー的には短絡ではないのですが、半波の波形が乱れてMCCBトリップの可能性はということを考えています。 原因は究明できないとしても、空調ですから一旦空調を止めて他の負荷を背負ったまま切り替え空調を運転するということも対策になるかと思います。