漏洩電流(漏れ電流)と地絡電流の違い、および零相電流と漏洩電流(漏れ電流)の違いについて説明して下さい。 漏洩電流の測定方法、漏洩電流による影響、漏洩電流についての基準、漏洩電流の防止対策についても教えて下さい。
これらの用語を混同して使ってしまいがちです。 これらの用語は、電気設備基準などの規程を正しく理解して感電保護や地絡保護を検討するために大切な用語ですので、ご質問に沿って一つ一つ説明します。
漏洩電流(漏れ電流)と地絡電流の違い : 漏洩電流とは、本来流れてはならない電路以外に流れる電流のことです 。 絶縁体の内部や表面を通じ、線間や大地間に流出する電流であり、通信機器は半導体機器のノイズの原因となったり、人体を通過すれば感電を引き起こすため、漏洩電流はできるだけ小さく抑えなければなりません。 一方、漏れ電流とは、電極に電圧が印加されていないオフの状態で電極に流れる電流のことです。 漏洩電流と漏れ電流違いは、「電流が流れるのが本来の電路かどうか」という点です。 地絡電流とは、絶縁不良のために大地に流れてしまう電流のことです。 漏洩電流は絶縁不良なしに大地に流れる電流ですので、漏洩電流と地絡電流は、「絶縁不良があるかどうか」の違いによって分けられます。 このように漏洩電流、漏れ電流および地絡電流はそれぞれ別の意味を持っていますが、一般的にはこれらを総じて漏洩電流と呼んでいるようです。
零相電流と漏洩電流(漏れ電流)の違い : 上記のように、予期せぬ事態により、あらかじめ電流が流れることを想定した電路ではない部分に流れる電流が漏洩電流であるのに対し、零相電流とは、3相交流で3相負荷が不平衡の場合に、各相に流れる不平衡電流のうちの零相分の電流のことです。 対称座標法を思い出して下さい。 不平衡電流を分解すると、下記の正相、逆相、零相の3つの電流の和の形に分けられます。 対称座標法についは、質疑応答 2020-0029, 0038, 0072, 0073, 0079, 0080「(電気理論)対象座標法 その1~その6」をご参照下さい。
- 正相・・・電源に同期した平衡三相電流(正回転)
- 逆相・・・電源の回転と逆に回る平衡三相電流(逆回転)
- 零相・・・3つの相に同相で流れる電流(回転無し)
漏洩電流の測定方法 : 漏電電流は、下図のような系統でZCT (零相変流器) を流れる電流として計測できます。 クランプメーターで、単相なら2本、3相なら3本をまとめてクランプすることにより測定することもできます。
(出展 : 電気設備エンジニアリングソフトウェアeDPP のユーザーガイド)
漏洩電流による影響 : 漏洩電流は本来流れてはいけない電路以外に流れる電流で、予期せぬ部分を流れていることもあり、場合によっては人がその部分に触れてしまう恐れがあります。 漏洩電流が人体を通過すれば感電を引き起こします。 感電は電流が30mAを超えると危険とされ、100mAを超える場合には重篤な被害が起こるとされています。 また、漏洩電流が通過した部分で火花が発生したり過熱状態になって出火して火災の原因になることもあります。 さらに、通信機器や半導体機器では漏洩電流がノイズの原因になることもあり、機器の誤作動を引き起こす可能性もあります。 インバータは昔のサイリスタによるPAM制御からIGBTによるPWM制御になって、更に高速スイッチングするため、これまで以上にノイズに対して注意が必要です。
漏洩電流についての基準 : 電路は原則として絶縁されていなければなりませんが、電路の損傷や経年劣化によって絶縁性能が悪くなり、経年とともに漏洩電流が大きくなることがあるため、絶縁抵抗測定などを定期的に行い、電路の絶縁性能を確認することが大切です。「低圧電路の絶縁抵抗」について、電気設備技術基準第58条に下記のように定められています。
- 150V以下の場合、絶縁抵抗1MΩ以上 (電炉の電源電圧が100Vの場合1mA以下)
- 300V以下の場合、絶縁抵抗2MΩ以上 (200Vの場合1mA以下)
- 300V超の場合、絶縁抵抗4MΩ以上 (400Vの場合1mA以下)
また、電気設備技術基準・解釈の第14条第1項に「漏洩電流は1mA 以下」と規定されています。 漏洩電流が1mA 以下となる絶縁抵抗を、低圧電路の電源電圧を100V、200V、400Vとしてオームの法則で計算すると、上記の絶縁抵抗値になります。 すなわち、絶縁抵抗は漏洩電流1mA以下となるように定められていると言えます。
漏洩電流の防止対策 : 感電の危険性を考えた場合、30mAを超える電流が人体を流れると危険とされることから、感電から保護する目的で15~30mAの高速型の漏電遮断器が使用されます。 同時に漏洩電流があることを知らせる漏電警報器も設置することで早期対策が取りやすくなります。 ただし、パワー半導体を使用したスイッチング回路や通信回路などでは大きな漏れ電流が常に生じている場合もあります。 これらの回路の保護については、 質疑応答 2023-0220「インバータ駆動電動機系統の漏洩電流と対策」で検討することにします。
参考文献:
[1] 漏洩電流:電気設備の知識と技術 https://electric-facilities.jp/denki7/ro/001.html
[2] 漏洩電流の危険性と対策―測定・計算の方法もご紹介:リタール株式会社 https://blog.rittal.jp/184/
[3] 教えて! goo:零相電流と漏れ電流は別物ですか? https://oshiete.goo.ne.jp/qa/587658.html
(電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)