最近のインバータは PWM 制御により高速スイッチングを行う半導体素子を使用しています。 インバータ駆動の場合キャリア周波数が高いこともあり、対地静電容量 (C) を通して漏洩電流が流れて地絡保護の誤動作や周辺機器に影響を与えることがあります。 対地静電容量 (C) には給電する電力ケーブル、電動機、インバータ本体のフィルタ(DCフィルタ:整流平滑、出力側ACフィルタ:モータサージ保護、入力側ACフィルタ:高調波平滑等)の設備があります。 対地静電容量 (大地キャパシタンス) をC、インバータの PWM キャリア周波数を f とすると充電電流 (補足説明 参照)は I = 2πfCE (E=V/√3) となります。 ここで、f:周波数 (Hz)、C :1回線一相の静電容量 (F)、E :相電圧 (V)、V :線間電圧 (V) です。
インバータを使用した時に増加する漏洩電流の伝わるルートとして、➀ ノイズフィルタと大地間の静電容量によるもの ② インバータと大地間の静電容量によるもの ③ インバータと電動機間配線と大地間の静電容量によるもの ④ 別系統のインバータと電動機間配線との静電容量によるもの ⑤ 電動機の共通接地ラインからの回り込みによるもの ⑥ 大地間の静電容量を通じての別系統への回り込みによるものがあります。 これらの漏洩電流によって、下記のようなよる影響が発生することがあります。
- 自系統または別系統の漏電遮断器(ELCB)や地絡継電器などの保護装置が不要動作する。
- 別系統の電子機器の出力にノイズが出る。
- インバータと電動機間に設置した外部サーマルリレーが定格電流以下で動作する。
これらの漏洩電流による影響への対策として、下記のような方法が考えられます。 具体的な対策については、インバータのメーカーとよく相談して適切な対策を講じて下さい。
- インバータのPWMキャリア周波数の設定を小さくする。 一般的に、0kHzまで小さくすることができます。 キャリア周波数を小さくすると、電動機からの磁気騒音が大きくなることがあります。
- 自系統および別系統の漏電遮断器に高周波対策付きのELCBや地絡継電器などの保護装置を使用する。 この場合、PWMキャリア周波数の設定を下げなくても良くなります。
- ELCBや地絡継電器などの保護装置の感度電流を大きくする。
- 影響を受けている電子機器の接地をインバータの接地経路と別にする。
- インバータの電子サーマル機能を使用して、外部のサーマルリレーを取り外す。
パワー半導体を使用したスイッチング回路や通信回路などでは、あえて漏れ電流を生じさせてノイズフィルターから大地に流すことで稼働を安定させているため、大きな漏れ電流が常に生じている場合もあり、この漏れ電流によって、漏電遮断器が正しく作動しないことがあります。 上記の対策に加えて、ノイズフィルターの漏れ電流を考慮した漏電遮断器を選定するなどの対策が必要です。
日本電機工業会技術資料JEM-TR148 インバータドライブの適用指針(汎用インバータ)の 5.3.5項「実装上の問題点及び対策」の c) 漏電遮断器 および 図74「ELCB不要動作抑制対策」をご参照下さい。 ここに書かれていますように、PWM インバータのような高速スイッチングデバイスを用いたインバータでは、その出力電圧が急峻するため、インバータ装置の大地浮遊容量を介して瞬間的に大きな「高周波」の漏洩電流が流れ (i=C・dV/dt)、電源側電路に施設された ELCB が不必要に動作することがあります。 従って、高周波対策された ELCB を用いる、リアクトルを用いて零相電流を抑制する、インバータと電動機間の配線を短くして浮遊容量を低減するなどの対策が必要です。
参考文献:
[1] インバータをお使いになるお客様へ http://www.mekatoro.net/digianaecatalog/toshii-vfnc1/Book/toshii-vfnc1-P0016.pdf
[2] 漏洩電流の危険性と対策―測定・計算の方法もご紹介 : リタール株式会社 https://blog.rittal.jp/184/
(電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)