質疑応答 2023-0244 接地極の種別とその特長 で、① 棒状接地極、② 板状接地極、③ 埋設地線、④ 環状接地、⑤ 構造体接地工法、⑥ 並列接地工法 などの特長について学びましたが、それぞれの接地極(工法)について、接地抵抗計算方法(計算式)を教えて下さい。
質問にある各接地極の接地抵抗計算方法 (計算式) について、質問の番号順 (①~⑥) に解説をします。
➀ 棒状電極の接地抵抗計算式
棒状電極とは、一般的に 図1 に示すような断面が円形で長い棒のような形状をしたものです。 この棒状の電極を、地表面に対して垂直方向もしくは斜め方向に埋設します。
棒状電極の1極あたりの接地抵抗値 R1 [Ω] を求める計算式は、電極長さを l [m]、電極半径をr [m]、大地抵抗率ρ [Ωm] とすると (1) 式 で示されます。 ここで(上式ではX=2l/r)とは、自然対数のことをいい と表記することがあります。 以降、本稿では自然対数を と表記します。
図1 棒状電極
② 板状電極の接地抵抗計算式
板状の電極の縦横の各辺の長さを a [m]、b [m]、大地抵抗率 ρ [Ωm] とし、地表面に置いた場合の接地抵抗値 R2 [Ω] は、(2a) 式 で示されます。 (2a) 式は、埋設深さを考慮してはいないため、かなり簡略化された計算式として扱われます。
本来、板状電極は、 図2 に示すような埋設深さを考慮し、水平に埋設した場合や垂直に埋設した場合があります。 埋設深さが考慮された板状電極の水平埋設の計算式は、(2b) 式 で表されます。 この計算式を扱えるようであれば、こちらの式を使って計算をされるのが良いと思います。 なお、(2b) 式で示される r [m] は、等価半径と呼ばれるもので、板状電極の片面の面積積を A [㎡] とした場合、円板に置換して求めたものです。
図2 板状電極
③ 埋設地線の接地抵抗計算式
埋設地線とは、図3 に示すような断面が円形で長い線または棒のような形状をしたものを地表面と並行に直線的に埋設したものです。 一般的には、裸軟銅より線が用いられます。 埋設地線の計算式(H.B、Dwightの式)を (3) 式 に示します。 この式は、原文のものを簡略化しています。 接地抵抗値 R3 [Ω] は、大地抵抗率 ρ [Ωm]、電極長さ l [m]、電極直径 d [m]、埋設深さ t [m] とすると (3)式 で示されます。
図3 線状電極
(3)式 で示した接地線の長さは、あくまでも直線状にまっすぐ伸ばした場合の計算になります。 S字のような曲がり、U字のように往復するような形にした場合は、計算通りの抵抗値に低減しませんのでご注意ください。
④ 環状接地の接地抵抗計算式
環状接地とは、一般的に図4に示すような接地線を環状に埋設し、閉ループとなっている接地極を言います。 一般的には、環状という名称から輪のような形をイメージしますが、四角形、多角形であっても、接地線で閉ループが構成されているものをそのように呼びます。 ちなみに、環状接地の中に線が縦横に入り網状を形成している接地極は、メッシュ接地といい、環状接地とは別の計算式を用います。 なお、メッシュ接地の計算式については、ここでの解説は省きます。
大地抵抗率 ρ [Ωm]、環の半径 P [m]、環状接地に用いられる電極の半径 r [m]、埋設深さ t [m]で施工された環状接地の接地抵抗計算式 (Sunde氏の式) は (4) 式 で示されます。 なお、線の太さ r〔m〕、環の大きさ P〔m〕、埋設深さ t〔m〕は下記の関係であることが計算条件として設定されています。
図4 環状接地
⑤ 構造体接地 (構造体利用接地極) の接地抵抗計算式
建物の建築構造体の地下の接地抵抗 R[Ω]は、大地抵抗率 ρ[Ωm]および建築物地下部分の全表面積 A [m2] を求め、(5)式 によって算出します。 なお、計算式は『JIS T1022:2018 : 病院電気設備の安全基準』を参照とします。 また、計算条件としては、基礎ぐいの表面積は、建築物地下部分の全表面積Aには含まないものとしています。
図5 構造体接地
⑥ 棒状電極の並列接地抵抗計算式
棒状接地の1本あたりの接地抵抗が分かれば、おのずと多極配列の計算もできます。 1極あたりの接地抵抗値を R1〔Ω〕、合成抵抗値をR0〔Ω〕、並列極数を n〔本〕、集合係数を η とすると、合成接地抵抗値は (6a) 式 のように表されます。
しかしながら、並列する接地極の接地抵抗値は必ずしも同じであるとはいえません。 例えば、1極目の接地抵抗値が R1 [Ω]、2極目の接地抵抗値が R2 [Ω]、3極目の接地抵抗値が R3 [Ω]、n極目の接地抵抗値が Rn [Ω] とした場合の合成接地抵抗値 R0 は (6b) 式 で表されます。合成抵抗値の計算は、(6a)式 および (6b)式を見ても分かるように、単純な抵抗素子の並列計算に集合係数を掛けたものとなります。 なお、この集合係数 η は、1以上の値です。 この値は、接地極の長さ、接地極同士の間隔、大地抵抗率など様々な条件によって変わります。 かなり複雑な計算が必要となりますので、ここでの解説は避けたいと思います。
(日本地工株式会社の方からの回答です)
事務局より:
この質疑応答2023-0245では、接地極の種別ごとに接地抵抗値を求める計算式について解説して頂きました。 これらの計算式を用いて接地抵抗値を計算することは、電気エンジニアにとって必須の技術です。 しかし、実際の大地抵抗率の値や接地工事の施工状態および接地極の経年劣化などによって、必ずしも計算値どおりの抵抗値が確保できているとは言えません。 そこで、定期的な接地抵抗の測定が必要になってきます。 接地抵抗の測定方法については、関連する 質疑応答2023-0247~0252 をご参照下さい。
最近では、質疑応答 2023-0239接地極周辺の地表面電位の計算方法 で説明したように、FDTD method ”Finite-Difference Time-Domain method”、CDEGS program ”Current Distribution Electromagnetic interference Grounding and Soil structure program”、 ETAP (電力系統解析ソフトウェア) などのソフトウェアを用いて計算することが多くなってきています。 これらのソフトウェアの概要については、質疑応答 2023-0239 をご参照下さい。
(電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)