質疑応答 2023-0263「変圧器の励磁突入電流による障害を抑制するための装置」で、「変圧器励磁突入電流抑制装置 Inrush-Limiter」について説明して頂きましたが、この設備の励磁電流抑制のアルゴリズム、および抑制効果について説明して下さい。
ご質問の変圧器励磁突入電流の抑制アルゴリズム(第2項参照)、および変圧器励磁突入電流抑制装置 Inrush-Limiter による抑制効果(第3項参照)について説明するにあたり、先ず、残留磁束の様相について説明します。
1.残留磁束の様相
変圧器の励磁突入電流を位相角制御方式で抑制するためには、変圧器停止時の残留磁束の様相を理解することが必要です。 図1は、某水力発電所の 60MVA, 60Hz, 220kV(Y) /110kV (△) /11kV (△) 変圧器バンクにおいて記録された変圧器停止時の電圧と磁束の波形です。 電圧は三相VTによって実測された波形であり、磁束は変圧器励磁突入電流抑制装置 Inrush-Limiter に組み込まれた付帯機能によって時々刻々の三相電圧の積分値としてデジタル演算で得られた計算波形です。
図1 において、t-op0 から t-op1 までの過渡期間の電圧、および磁束の波形は時間的に連続して回転する正三角形として表現でき、電圧の正三角形フェーザは自由角速度で回転しつつ減衰して時間 t-op1(位相角時間に置き換えれば θ-op1) に消滅しています。 磁束の正三角形フェーザもまた回転を伴いつつ減衰し、その回転速度は徐々に低下して時間 t-op1 (θ-op1) において一定の値(残留磁束)で停止状態となります。
ここで、時間(t)および 位相角時間 (θ) のサフィックス op0 は変圧器停止時、op1 は変圧器停止から一定時間経過後、cl は変圧器再課電時を表します。
2.変圧器励磁突入電流の抑制アルゴリズム
変圧器鉄心の残留磁束に変圧器課電時の励磁磁束が重畳することで鉄心の磁束が飽和領域に達し、過大な励磁突入電流が発生することから、磁束が飽和領域に達しないように課電時の励磁磁束を残留磁束の位相角に見合う投入位相角で遮断器を制御する(投入する)方式を確立しました。
励磁突入電流抑制アルゴリズムとして、変圧器が時間 t-cl (θ-cl) で課電される時に、電源回路側からの初期励磁電圧による初期励磁磁束の正三角形が残留磁束の正三角形とほぼ同一位相になるように磁束位相の同期制御を行うことで励磁突入電流過渡現象を抑制することができます。
図2(a) は、残留磁束の正三角形位相角と変圧器再課電時の系統電圧による初期励磁磁束の正三角形位相角の位相関係が一致すること、すなわち各相の θ-cl が θ-op1 と一致するように投入位相角制御を行なう様子を示した図であり、各相のスカラー差 [ΔΦa, ΔΦb, ΔΦc] を小さくし、鉄心の磁束飽和を避けて励磁突入電流の抑制を実現するアルゴリズムです。 図2(b) は、各相ともに残留磁束と初期励磁磁束の極性が不一致となるケース(逆位相投入)を示しており最大級の励磁突入電流が発生するケースです。
3.変圧器励磁突入電流抑制装置 Inrush-Limiter による抑制効果
大手電力供給事業の某社が北海道に建設した風力発電システム(2,500kW×12台)の系統連系変電所(主変圧器30MVA)の連系系統図を 図3 に示します。 変圧器励磁突入電流抑制装置 Inrush-Limiter(以下、本装置という)は、遮断器 Br2 開閉操作に伴う励磁突流現象を抑制する目的で導入されました。
本装置を不使用時の励磁突入電流と電圧低下の実測波形を 図4(a) に、本装置使用時の実測波形を 図4 (b) に示します。 記録された結果を比較すると下記のようになります。 本装置を導入することにより、励磁突入電流および電圧低下共に大幅に抑制されました。
- 66kV母線の電圧低下 : 不使用時20% => 使用時4%(1/10以下に抑制)
- 励磁突入電流 : 不使用時876A => 使用時156A(1/5以下に抑制)
(株式会社興電舎の方からの回答です)