質疑応答〔2021-0279 アークフラッシュ対応の配電盤(構造と運用)〕でアークフラッシュ対応の配電盤の構造と運用海について説明して頂きましたが、これらの配電盤に関する国内規格と国際規格について説明して下さい。
アークフラッシュ対応の配電盤(以下、Arc-Proof 配電盤という)に関する規格は、国際規格に準拠した内部アーク放圧技術の進展によって、内部アーク放電に対応した Arc-Proof 配電盤が開発されています。 ここでは、先ず関連する国際規格について説明し、それに対応する国内規格について説明します。 なお、安全に関する規格は年々改訂されること、メーカーの製作状況も日々向上されていることから、下記の情報は現時点における情報としてご参考にして頂き、実際の実務にあたっては最新の情報を確認して進めて下さい。
1. 国際規格
Arc-Proof 配電盤について規定している国際規格について整理すると下記のようになります。
IEC 62271-200 : 2021〔High-voltage switchgear and controlgear – Part 200 : AC metal-enclosed switchgear and controlgear for rated voltages above 1 kV and up to and including 52 kV〕
IEC 62271-200 : 2021 は、〔定格電圧1kVを超え52kV以下の金属閉鎖形スイッチギヤおよびコントロールギヤ(以下、高圧配電盤という)〕に関する国際規格の一つで、アークフラッシュについても規定しています。 この規格は、アークフラッシュによる被害を防止するために、〔内部アーク性能〕という要求事項がオプションとして指定しています。〔内部アーク性能〕とは、配電盤が内部アーク試験に合格したことを示す性能です。 内部アーク試験とは、高圧配電盤内に人工的にアークを発生させて、その耐久性や安全性を評価する試験です。〔内部アーク性能〕は、高圧配電盤の構造や設置場所に応じて〔A-F, A-FL, A-FLR〕 のカテゴリに分類されています。 なお、IEC 62271-200 の最新版は、2021年5月27日に発行された第3版です。 Arc-Proof 配電盤の分類〔A-F, A-FL, A-FLR〕については、質疑応答〔2021-0279 アークフラッシュ対応の配電盤(構造と運用)〕を参照して下さい。
IEC TR 61641 : 2014〔Enclosed low-voltage switchgear and controlgear assemblies – Guide for testing under conditions of arcing due to internal fault〕
IEC TR 61641 : 2014 は、〔低圧スイッチギヤおよびコントロールギヤ(以下、低圧配電盤という)〕 の内部故障によるアーク発生時の試験方法に関する技術報告書です。 この技術報告書は、開閉装置および制御装置のアーク耐性を評価するためのガイドラインを提供しており、人身事故や装置の損傷を防止し、事故後の適正な運用を確保することを目的としています。 この技術報告書は、IEC 62271 シリーズの補足的な文書として作成されており、定格電圧が1 kVを超え52 kV以下の交流金属外殻開閉装置および制御装置に適用されます。 この技術報告書の最新版は、2014年9月に発行された第3版です。
IEC 61439 : 2020〔Low-voltage switchgear and controlgear assemblies〕〔低圧開閉装置および制御装置アセンブリ〕 および IEC 60947-1,-2 : 2020〔Low-voltage switchgear and controlgear〕〔低圧開閉装置および制御装置〕
IEC 61439 : 2020 は、〔低圧開閉装置および制御装置アセンブリ〕の設計、組立、試験に関する必須の要求事項を規定していますが、アークフラッシュについては直接的には規定していません。 しかし、2020年に改訂された IEC 61439 の第1部と第2部には、内部アークの緩和、予防、検証に関する規格へのリンクが含まれており(関連する規格を参照するよう規定されており)、アークフラッシュのリスクを低減するためのガイドラインが提供されていると言えます。 例えば、IEC TR 61641 は、内部アークによる影響を制御するための設計方法や試験方法を示しています。 また、IEC 60947-1〔低電圧開閉装置及び制御装置-第1部:一般規則〕は、定格電圧が交流1000 V又は直流1500 V以下の回路に接続される装置に共通する一般規則を規定したものであり、アークフラッシュの発生を防止するための対策を規定しています。 IEC 61439 が IEC 60947-1 の一般規則に従って作成されているということから、IEC 61439 は間接的にアークフラッシュについても規定していると言えます。 この規格に準拠することで、CEマーキングの整合規格にもなります。
IEC 60947-1 : 2020 〔低圧開閉装置および制御装置-第1部:一般規則〕 の最新版は、2020年6月に発行された第6版です。 IEC 61439-1〔低圧開閉装置および制御装置アセンブリ-第1部:一般規則〕 の最新版は、2020年5月に発行された第3版、IEC 61439-2〔低圧開閉装置および制御装置アセンブリ-第2部:特定要求事項〕 の最新版は、2020年7月に発行された第3版です。
2. 国内規格
国内規格としては、長年国内高圧配電盤の準拠規格であった日本電気工業会規格 JEM1425 が、2025年3月に廃止される予定で、JIS C 62271-200 に移行することになっています。 JIS C 62271-200 は、国際規格 IEC 62271-200 に整合した規格で、運転連続性喪失区分 (LSC) や内部アークに関する要求事項などが追加されています。
JIS C 62271-200 : 2021〔定格電圧1kVを超え52kV以下で、定格周波数が60 Hz以下の屋内用及び屋外設置用の金属閉鎖形スイッチギヤおよびコントロールギヤ〕
JIS C 62271-200 : 2021 は、〔定格電圧1kVを超え52kV以下で、定格周波数が60 Hz以下の屋内用及び屋外設置用の金属閉鎖形スイッチギヤおよびコントロールギヤ(以下、高圧配電盤という)〕について規定しています。 この規格の目的は、安全性、信頼性、性能、相互運用性などの品質を確保することです。 この規格は、アークフラッシュについては直接的には規定していませんが、内部アークの緩和、予防、検証に関する規格へのリンクが含まれており(関連する規格を参照するよう規定されており)、アークフラッシュのリスクを低減するためのガイドラインが提供されています。 例えば、IEC TR 61641 は、内部アークによる影響を制御するための設計方法や試験方法を示しています。 また、IEC 62271-200 は、高電圧開閉装置と制御装置の一般規則を定めており、アークフラッシュの発生を防止するための対策を含んでいます。 したがって、JIS C 62271-200 : 2021 は間接的にアークフラッシュについても規定していると言えます。 この規格に準拠することで、CEマーキングの整合規格にもなります。 JIS C 62271-200の最新版は、2021年7月20日に制定された第1版です。
JIS C 8480 : 2023 〔キャビネット形分電盤〕
JIS C 8480 : 2023 は、キャビネット形分電盤に関する日本産業規格です。 この規格は、周波数50Hzまたは60Hz、定格電圧600V以下、基準定格電流630A以下、定格短時間耐電流35kA以下の交流電路、または直流125V以下、基準定格電流50A以下の直流電路に用いるキャビネット形分電盤の定義、種類、定格、性能、構造、収納機器などについて規定しています。 この規格は、IEC 61439 に準拠しています。 この規格の目的は、安全性、信頼性、性能、相互運用性などの品質を確保することです。 この規格は、アークフラッシュについては直接的には規定していませんが、JIS C 62271-200 と同様の理由から、JIS C 8480 は間接的にアークフラッシュについても規定していると言えます。 なお、JIS C 8480 の最新版は、2023年10月に発行予定の第2版です。
3. JIP33
JIP33は、IOGP(国際石油・ガス生産者協会)と世界経済フォーラムが主導し、12の主要な石油・ガスオペレーターと EPC パートナーが支援しており、バルブ、ポンプ、パイプラインなどの様々な種類の機器について、55以上の仕様書を作成しています。 電気設備に関する仕様書として、JIP33-S-620 と JIP33- S-560 があります。
JIP33-S-620 Supplementary Specification to IEC 62271-200 High-voltage switchgear and controlgear
JIP33-S-620 は、JIP33 の仕様の一つで、高圧スイッチギヤおよびコントロールギヤ(以下、高圧配電盤という)に関するものです。 この仕様は、IEC 62271-200 などの国際規格に基づいており、石油・ガス産業における高圧配電盤の品質と性能を向上させることを目的としています。 高圧配電盤に関しては、この仕様書の中でArc-Proof 配電盤としてカテゴリ A-FLR を指定しています。
JIP33- S-560 Supplementary Specification to IEC 61439-1 & 2 Low-voltage Switchgear and Controlgear
JIP33-S-560は、JIP33 の仕様の一つで、低圧スイッチギヤおよびコントロールギヤ(以下、低圧配電盤という)に関するものです。 この仕様書は、IEC 61439 などの国際規格に基づいており、石油・ガス産業における低圧配電盤の調達に関する最低限の共通の要件を定めています。 低圧配電盤については、Arc-Proof配電盤としてのカテゴリ A-FLR を指定していないようです。 ACB(Air Circuit Beaker)盤については A-FLR 対応の ACB盤を作っているメーカーは殆んど無いと思われます。 MCC(Motor Control Center)については、Rack-in や Rack-out (draw-out) 時に MCC盤と MCCユニットのドアの間に隙間ができてしまうので、A-FLR 対応は難しいようです。 ただ、Simens の一部のタイプやインドのL&T社のMCCは、MCCのユニットを Rack-in 状態でMCC盤側の母線に対するコネクタ(いわゆるチューリップ)をユニットの内部で移動することで隙間ができないように対応しています。(A-FLRとして認定されているかはどうかは把握していません。)
(電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)