ケーブルサイズの選定(ケーブルサイジング手法)について、検討すべき項目、検討方法、注意すべき点、結果の検証方法などについて教えて下さい。
ケーブルサイジングは電気設備設計にあたって最も基本的な作業なので、各社、表1 に示すような、系統データ、ケーブル布設条件、負荷データ、ケーブルデータなどを基に敷設可能な最大ケーブル長さを計算した〔ケーブルサイズ選定表〕をお持ちだと思います。 通常の業務は、設計の効率化と仕様の統一化のために、このような〔ケーブルサイズ選定表〕を用いて作業を行いますが、特殊な負荷や特殊な敷設条件、トラブルが生じた時などには、ケーブルサイジングについての知識が必要になります。 ここでは〔ケーブルサイジング手法〕について説明します。
== ケーブルサイジングについての基本的なチェックポイント ==
ケーブルサイジングにあたって検討すべき項目は、① 負荷の定常電流をおよび始動電流を流せるか? ② 負荷が定常運転している時および始動する時の電圧降下は大丈夫か? ③ 過電流、短絡電流の保護設備とケーブルの協調がとれているか? の3点です。
1. 負荷の定常電流をおよび始動電流を流せるか?
負荷の定常電流に対して、〔ケーブルの許容電流 > 負荷電流〕であること。 ケーブルの許容電流は、電線便覧などのデータ(許容電流)に対して〔Data 1〕のような補正が必要です。〔Data 1〕の Ca: 周囲温度に対する補正(Ta : Base Temperature, Tc : Maximum Conductor Temperature)、Cg: 多条布設係数〔その他の豆知識の第1項参照〕、Cr: 土壌の熱抵抗性、Cu: その他の条件による補正係数です。 この中で、CaおよびCgによる補正は必須です。
これらの補正係数を掛け算したものがケーブル許容電流の〔低減率〕です。 一般的に、ケーブル許容電流の〔低減率〕は、0.5~0.7 とすることが多い。〔その他の豆知識の第1項参照〕
負荷(電動機)の始動電流に対しては、電動機の始動電流を電動機が始動完了するまでの間、流すことが出来るかの検討が必要です。 電動機のような容量一定負荷の場合、系統電圧が低下すると始動電流は低下するが始動時間が長くなることも考慮が必要です。〔その他の豆知識の第2項参照〕
参考:
内線規程 (JEAC 8001-2022) の 1340「許容電流」1340-5「CVケーブルなどの許容電流」にケーブルの許容電流について規定されている。 ケーブルメーカーの技術資料にも同様の資料がある。
2. 負荷が定常運転している時および始動する時の電圧降下は大丈夫か?
電動機が定常運転している時および始動する時の電圧降下は〔Data 2〕に記載したような電圧降下計算式で求めます。 一般的に、許容されるケーブルの電圧降下は〔フィーダケーブルの場合: 定常運転時 2%、始動時 5~10%〕、〔電動機用のケーブルの場合: 定常運転時 5% 程度、始動時 10~15% 程度 (15% at motor terminal)〕 とすることが多い。
参考:
電動機の定常電流における電圧降下は、内線規程(JEAC 8001-2022) の 1310-1「電圧低下」に、ケーブル長さが 60m以下: 幹線 3% 以下、分岐回路 2% 以下、120m以下: 合計で 5% 以下、200m以下: 合計で 6% 以下、200m超過: 合計で 7% 以下と規定されている。 電動機の始動電流に対する規定は無い。
各ケーブルの電圧降下がこれらの値に収まっているかどうかは、ETAP のようなソフトウェアを用いて電力潮流計算を行い検証することをお勧めします。 また、電動機始動時の電動機端子電圧を求め、その電圧で電動機が始動できるかどうかの検討も必要です。
3. 過電流、短絡電流の保護設備とケーブルの協調がとれているか?
ケーブルサイズは、過電流および短絡電流を遮断するまでの時間流れても損傷を受けない断面積(mm2)が必要です。 CVケーブル (XLPE Insulated Cable)の場合〔Data 3〕の計算式と定数で必要な最小サイズを求めます(CVケーブル以外の場合は定数が異なります)。 ケーブルの Damage Curve に対して保護継電器の設定についての具体的な検討が必要です。〔その他の豆知識の第3項参照〕
参考:
開閉器によるケーブル保護については、電気設備技術基準 第148条、第149条、および 内線規程 7章 〔低圧の電動機、加熱装置及び電力装置の配線設計〕に規定されている。
== その他の豆知識 ==
1. ケーブル許容電流の低減率
ケーブル許容電流の低減率は、一般的に 0.5~0.7 くらいとすることが多いと思います。 ここで注意して欲しいのは、負荷および電動機の定格電流に対する係数なのか、負荷電流(負荷電流は、定格電流 x 0.6~0.9 くらい)に対する係数なのかを意識して確認することが必要です。
質疑応答2024-0282〔ケーブルの敷設状況による許容電流の低減率〕のトラブル事例の場合、建設時は低減率 0.7 (低減率は、〔Data 1〕の補正係数 Ca, Cg, Cr, Cu を掛け算した値)で設計していたが、その後のケーブルの増設などで低減率 0.3 程度になっていた。 さらに、ケーブルピット近辺で重機や火気を使用する工事が行われ、ケーブルピット蓋の上部に鉄板養生や防炎シートが養生されており、ケーブルピット内の放熱が抑制された時期があったということです。
ケーブル許容電流の低減率は、このような将来の増設等もある程度見込んで設定することが必要です。 また、質疑応答2024-0282 の 図1 のように、ケーブルの配列を入力し、かつ外部から加わる熱も考慮に入れて、ケーブルの温度や許容電流を計算する ETAP のようなソフトウェアを活用することをお勧めします。
2. 電動機の始動電流および一斉始動電流に対する対応
下図の 図1 は〔電動機始動電流、短絡電流と電動機ケーブルの Damage Curve〕に関する保護協調図です。 電動機の始動電流および短絡電流の値よりも、電動機ケーブルの Damage Curve の値が大きいことが分かります。 また、電動機の端子電圧が変わると電動機の始動電流と始動時間の値が変わることも表示されています。
図2 は〔電動機一斉始動電流、短絡電流と主回路ケーブルの Damage Curve〕に関する保護協調図です。 電動機の一斉始動電流および短絡電流の値よりも、主回路ケーブルの Damage Curve の値が大きいことが分かります。 このように、瞬時電圧低下が回復後に電動機が順序再始動する時の一斉始動電流に対する検討も必要です。
3. 短絡電流な対する対応
上図の 図1 および 図2 に示すように、短絡電流を検出して遮断するまでの時間、ケーブルが耐えることが出来るかどうかの検証が必要です。 上図の系統の場合、電動機ケーブルおよび主回路ケーブルの Damage Curve の方が短絡電流の値よりも大きくなっているので大丈夫です。
【出展】
- Power System Dynamics with Computer-Based Modeling and Analysis
- 電気設備設計ソフトウェアe-DPP User Guide
(電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)