低圧電路の接地方式(TT方式、TN方式およびIT方式)について、① 関連する国際規格と国内規格、② TT方式、TN方式およびIT方式の結線、③ TT方式、TN方式およびIT方式の意味と特長、④ PE導体、中性導体(N)および PEN導体、などについて説明して下さい。
ご質問に沿って、① 関連する国際規格と国内規格、② TT方式、TN方式 および IT方式 の結線、③ TT方式、TN方式 および IT方式 の意味と特長、④ PE導体、中性導体(N)および PEN導体 の順に説明します。
1. 関連する国際規格と国内規格
低圧電路の接地方式は、IEC 60364〔Electrical Installations for Buildings〕および JIS C 60364〔低圧電気設備〕に定められています。 IEC 60364 は、国際電気標準会議(IEC)によって定められた建物の電気設備に関する国際標準です。 国内規格である JIS C 60364 は、JIS C 0364〔建築電気設備〕から更新された規格で、IEC 60364 に準拠しています。 なお、IEC 60364 および JIS C 60364 の最新版の年号は、各Part によって異なりますので、実際の作業にあたっては最新の年号を確認することをお勧めします。
2. TT方式、TN方式 および IT方式 の結線
理解し易いように、最初にそれぞれの方式の結線図を確認します。 図1 に 低圧電路の接地方式〔TN方式 (a) (b)、TT方式 (c)、および IT方式(d)〕の結線図を纏めています。 TN方式は、PE導体、中性導体(N)および PEN導体 の接続方法によって、TN-S方式 (a)、TN-C方式 (b)、TN-C-S方式〔中性線(N)と保護導体(PE)を部分的に共用する〕の3つの方式があります。
3. TT方式、TN方式 および IT方式 の意味と特長
低圧電路の接地方式〔TT接地システム(TT方式)、TN接地システム(TN方式)および IT接地システム(IT方式)〕の特長を 表1 にまとめた。
(1) TT方式(TT接地システム)
TT方式は、〔電源の中性点(N)と保護接地導体 (PE) をそれぞれ独立して接地する方式〕です。 日本で採用されることが多く、TN方式と比較して地絡電流が小さくなります。 日本の単相低圧配電系統では、通常は TT方式 が用いられており、AC 100V系では片側が、AC 200V系では中点が配電変圧器(柱上変圧器)において接地されています。
(2) TN方式(TN接地システム)
TN方式は、〔電源の中性点(N)でのみ接地(一箇所で接地)し、機器をその中性点(N)に接続するための保護接地導体 (PE) を電力線と共に接続する方式〕です。 欧州で採用されることが多く、地絡事故時には短絡電流と同等の大きな電流が流れます。 また、TN方式は、電磁両立性(EMC)対策 <See Note> に優れており、電子機器の干渉を抑制する効果があります。
TN方式 には、TN-C方式、TN-S方式、および TN-C-S方式 の3つの方式があります。 ① TN-C方式は、〔保護接地導体 (PE) と電源の中性点(N)を PEN導体として1本にまとめて敷設する方式〕で、3相回路の場合4線式になります。 ② TN-S方式は、〔保護接地導体 (PE) と電源の中性点(N)を別々に敷設する方式〕で、3相回路の場合5線式になります。 ③ TN-C-S方式は、〔PEN導体を部分的に共用するする方式〕です。 PEN導体は、3相回路の場合3相4線式として、これまで多く使われていますが、安全性の向上のために、保護接地導体 (PE) と電源の中性点(N)をそれぞれ設けた TN-S方式 や TN-C-S方式 に置き換えられつつあります。
Note : 電磁両立性(EMC)とは、電気・電子機器について、それらから発する電磁妨害波(ノイズ)が他のどのような機器、システムに対しても影響を与えず、また他の機器、システムからの電磁妨害(ノイズ)を受けても自身も満足に動作する耐性のことです。
(3) IT方式(IT接地システム)
IT方式は、〔電源の中性点(N)を非接地または高インピーダンス接地し、保護接地導体(PE)をそれぞれ独立して接地する方式〕です。 地絡電流が微小で、信頼性が要求される情報通信や医療器具等の回路に使用されることが多い。
4. PE導体、中性導体(N)および PEN導体
(1) PE導体
PE導体の PE は Protective Earth の略で、日本語では〔保護接地〕という意味になります。 PE導体、すなわち 保護接地導体(PE)とは、機器が故障などで漏電した場合に人がその機器に接触すると人間を通して電気が流れる感電事故を防ぐため、漏電した場合に備えてあらかじめ大地(地球)に電気が流れるように機器と大地(Earth)をつないでおくための導体です。〔保護接地〕の目的は人を感電する危険から守ることです。
(2) 中性導体(N)
中性導体(N)とは、電源の中性点(N)のことです。 具体的には、単相2線式および3線式であれば N相を、3相3線式の2次側がY結線の場合はYの中心を接地することになります。 TN-S や TN-C-S 接地システムでは、電源の中性点(N)と保護接地導体(PE)とは別の導体を用いて接続します。
(3) PEN導体
PEN導体とは、保護接地導体(PE)と中性導体(N)の機能を兼ね備えた導体です。 PEN導体は、特にTN-C接地システム (T:接地、N:中性線への導体の接続、C:中性線および保護導体の機能を1本の導体で兼用する)で使用されます。 PEN導体を保護接地導体 (PE) と中性導体(N)に分離する場合、それぞれが異なる色で識別します。 例えば、青色は中性(N)を、黄緑色は保護接地(PE)を示します。
(電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)