質疑応答〔2024-0300 系統解析の重要性を考える〕の 添付資料:系統解析の重要性(を考える)の中から、第3章、3.1.2項 および 3.1.3項の〔瞬低発生時の誘導電動機群の再始動/再加速の解析〕における失敗事例について紹介して下さい。
私の 添付資料 : 系統解析の重要性(を考える)の第3章、3.1.2項 および 3.1.3項の〔失敗事例〕について説明します。 実際に瞬低発生時の誘導電動機群の再始動/再加速の解析を行う場合のご参考にして下さい。
3.1.2 失敗事例 1-1
海外の化学プラント建設にて、瞬低発生時の誘導電動機群の再始動/再加速の解析(Group Motor Starting / Re-acceleration study)を海外コントラクタに任せたところ、明らかに誤った検討結果が提示されたので、結局自分達で検討し直すことになった。
============
失敗事例 1-1 として経験したことをご紹介します。 海外(アジア地区)のプラント建設で系統解析を担当したのは、一応、世界的に名の通ったエンジニアリング会社(および下請けのコンサル)だったのですが、下記のような状況でした。
1) 当エンジ会社は電動機群を6つのグループに分割し、順次再始動/再加速する方法を採用していました。 しかし、各グループの再始動/再加速のタイミングは瞬低の電圧回復からかなり時間が経過して行われる結果となっており、6番目のグループは20秒経過後となっていました。 10~20秒間もプラント補機が減速、または停止している状態が存在すると、連続系プロセスで構築されたプラントの運転継続は不可能です。 温度、圧力、流量、燃焼炉等のプロセス制御が乱れ、超高圧・高温の反応系を抱える当化学プラントはインターロックが作動しプラントは停止に至ります。
2) ETAPに入力された諸定数を我々が確認した結果、このような検討結果を招いた原因は下記等であることが分かりました。
- 誘導電動機と負荷の単位慣性定数(H:Inertia constant)は明らかに誤った数値が入力されていました。 また、負荷の速度-トルク特性も現実にはあり得ない値でした。
- 加えて、一般負荷モデルも適切な値が入力されていませんでした。 電圧変化に対する有効電力特性〔式(1)参照〕の a の値等です。 負荷モデル(Lumped load model)や他の機器の数学モデルに対する工学的意味が理解されていなかったと想像します。
よって、提示された電動機の加速時間は誤りであることが分かりました。 対策として、我々が自らETAPで再検討を行いました。
3.1.3 失敗事例1-2
化学プラント建設で、瞬低発生時の誘導電動機群の順次再始動/再加速を検討したが、負荷機械設備の課題を見過ごしていたため、後に機械側の対策を追加施工することになった。
============
同じく、他の大規模化学プラント建設においても、瞬低発生時の電動機群の再始動/再加速に関する検討を行いました。その過程におけるプラント安全性評価で指摘された点は下記のとおりです。
- 大型回転機の潤滑油ポンプは、短時間の停止または回転数の低下があると、機械本体は潤滑不良となって破損するリスクがあること。 大型回転機の軸に直結されたタイプの油ポンプも詳細検討が必要である。
- 失敗事例 1-1 と同じく、化学プラント内のポンプ、ファン、押出機等、回転機の回転数が低下すると、一時的にプロセス制御が乱れプラントのインターロックが作動する可能性があること。
また、評価会議では、大型発電用ボイラの燃料油噴燃ポンプ(Fuel injection pump)について、瞬低発生時に電動機は再始動/再加速したものの、燃料油圧力低下インターロックが作動しタービン・発電機を含む発電設備全体が停止した実事例も紹介されました。 当時、圧力低下検出用の圧力スイッチには1秒のタイマが挿入されていましたが、これが2秒に変更されています。 これを踏まえ、図2 に示す設備の追加対策を講じることになりました。
- 潤滑油ポンプの吐出側にアキュームレータを設ける。
- または、大型回転機の場合はランダウンタンクを設ける。ランダウンタンクはブラックアウト対策としても有効です。
- 潤滑油の圧力低下を検出する圧力スイッチには適切な時限のタイマ(時限リレー)を設け、インターロックで装置が停止する事態を回避すること。
- 他、プロセスの流量・圧力等のインターロック検出端にも同様に適切な時限のタイマを設ける。
- 上記 3 および 4 と合わせ、制御システム側ではプロセスの安定運転維持について検討を行う。
以上、大型化学プラントの瞬低対策は、電気設備の対応だけで実現できるものではありません。 機械設備や計装・制御システムに対する検討視点が不可欠です。
(旭化成株式会社 加戸良英)
事務局より:
1.上記の 事例1‐1の1) および 事例1-2 にように、〔電動機群をいくつかのグループに分割して順次再始動/再加速〕方式を適用する場合は、電気設備の対応だけでなく、プロセスインターロック、機械側の条件等も十分考慮して検討することが必要です。 下記の質疑応答でも、プロセス、計装、機械のエンジニアと相談しながら検討した事例について説明していますのでご参考にして下さい。
2. 事例1‐1の2) は、ETAP に入力した諸定数が適切でなかったための失敗事例です。 質疑応答 2024-0317〔系統解析の重要性(瞬低発生時の誘導電動機群の再始動/解析事例)〕の〔関連する質疑応答〕に纏めた〔モデリング〕関連の Q&A も併せてご参考にして下さい。