蓄電池を搭載した鉄道車両について、その種類、目的、特徴、システム構成、そしてどのような路線で使用されているかなどについて説明して下さい
鉄道は非電化路線ではディーゼルエンジンで駆動する機関車や気動車が走行しているが、最近は、リチウムイオン電池の大容量化が進み、蓄電池を搭載した環境負荷に配慮した車両が出現しており、電化区間でも非常走行用蓄電池車両として活躍している。
1.蓄電池電車
電化区間でパンタグラフにより集電して、蓄電池にエネルギーを蓄えて、非電化区間では蓄電池に蓄えられたエネルギーで走行する方式である。 蓄電池電車は直流1500Vと交流20kV方式が有り、図1は直流1500V用、図2は交流20kV用の主回路構成例であり、電化区間でパンタグラフにより集電して、蓄電池にエネルギーを蓄え、非電化区間では蓄電池に蓄えられてエネルギーで走行する方式である。
直流用ではJR東日本の EV-E301系(烏山線)、交流用ではJR九州の BEC819系電車などが実用化されている。 航続距離は蓄電池の搭載量によって制限されるため、長距離無充電の走行には適しておらず、国内では主に20~30キロ程度の区間で使用されている。 2.非常走行用蓄電池搭載車両
電車に蓄電池を搭載しており、架線停電時に電車が駅間で停止した場合でも、蓄電池に蓄えたエネルギーで最寄りの駅など避難できる場所まで自走できる車両である。 東京メトロ銀座線1000系電車や、東海道・山陽新幹線N700S系電車(写真1)、および西九州新幹線N700S系8000番台などがある。変換装置にSiCを用いて小型・軽量化し、蓄電池を搭載している。 3. ディーゼル・蓄電池ハイブリッド車両
ディーゼルエンジンで発電した電力や、ブレーキ時の回生電力を蓄電池に貯蔵することができ、この電力で交流発電機を駆動する。 蓄電池のアシストによりエンジンの燃焼向上を図り、脱炭素化に寄与する。
自動車のハイブリッド方式には、エンジンで発電した電力を蓄電池に蓄えて、その電力で電動機を駆動して走る「シリーズ方式」(例えば日産AURA)と、エンジンと電動機のそれぞれが車輪に動力を伝える「パラレル方式」(例えばスバルe-Boxer)、両方の技術を組み合わせた「シリーズ・パラレル方式」などがあるが、鉄道車両の場合は「シリーズ方式」が一般的である。
図3 はシリーズ方式で、JR東日本のキハE200形、JR東海のHC85形、JR九州のYC1系(写真2)などの蓄電池ハイブリッド車両がある。 車両に軽油を燃料として搭載しているため、航続距離が蓄電池電車よりも長い。 4. 燃料電池ハイブリッド車両
燃料電池ハイブリッド車両は、鉄道車両の動力源として水素を燃料とする燃料電池を採用し、車載したバッテリーと共に駆動用モーターに電力を供給するハイブリッド車両である(図4)。 ディーゼルハイブリッド車両のエンジンと発電機に代わり、燃料電池が水素と酸素を反応させて電気エネルギーを発生させる装置である。
水素から電気への発電効率が40~50%と高効率であり、排出されるものは水蒸気のみであることから、環境への負荷が低いとされている。 国内では試験車両として、鉄道総研がR291、JR東日本がFV-E991系(愛称HYBARI)を開発しており、海外ではフランスの鉄道メーカーALSTOMが iLint を営業用車両として開発した。
5. 蓄電池の充電
蓄電池の充電には、
- 走行中に架線からパンタグラフで電力を受電して充電する。
- 駅などに急速充電装置を設置して、停車中にパンタグラフや集電装置で電力を受電する。
などが行われている。
(持永芳文 記)