今後のカーボンニュートラル達成に向けて、エネルギー分野では、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入拡大が期待されています。 一方で、これらの電源は天候によって出力が変動することから、この変動を吸収する大規模な蓄電池の導入が世界で進められています。 また、運輸分野では、自動車だけでなく航空機、鉄道や船舶などの移動体の電動化が盛んに研究されています。
1. 系統用蓄電池
太陽光発電や風力発電は、天候によって出力が変動しますので、これを主力電源化するためには、その変動を吸収する蓄電池が必要になります。 特に海外などで大規模な蓄電池の導入が進んでいます。
豪州やハワイでは、風力、太陽光の発電コストが低く、経済的に合理性がある選択肢として、導入拡大が進んでいます。それに合わせて大規模な蓄電池への投資も盛んに行われています[1]、[2]、[3]。日本でも風力発電の変動対策として、大規模な定置型蓄電池が導入されている[4]ほか、国内でも系統蓄電所が広がってきています[5],[6]。フィリピンでは、浮体式のハイブリッド蓄電池も建設されています[7]。
また、新しい蓄電池として、全固体電池やリチウム硫黄電池[8]、ナトリウムイオン電池などがありますが、レドックスフロー (See Note1) の拡大が見込まれています[9]。
2. 自動車用の蓄電池
自動車用バッテリーの役割と種類、および今後の発展と展望について説明します。
(1) 自動車用バッテリーの役割と種類
自動車用バッテリーは、エンジンの始動や電装品への電力供給などを行い、主に鉛蓄電池が用いられています[12]。 また、ハイブリッド電気自動車用(HEV)として、主にニッケル水素バッテリーが使われています。ニッケル水素バッテリー(NiMH): エネルギー密度が高く、環境に優しいですが、メモリ効果 (See Note2) があることや電極にレアメタルが用いられておりコストが高いことなどが課題です。 近年、バッテリー式電動自動車(BEV)も注目されてきており、BEV用としては主にリチウムイオンバッテリーが用いられいます。リチウムイオンバッテリー(Li-ion)は、エネルギー密度、軽量、長寿命で環境に優しいですが、高価です。 正極と負極に用いられる材料によっていくつかの種類があります。
(2) 今後の発展と展望
今後の自動車用バッテリーの発展は、電気自動車(BEV)やハイブリッド車(HEV)の普及に伴い、さらに進化することが期待されています。 BEVは航続距離が短いことや充電時間が長いことが課題となっていますので、今後の展望として、バッテリーのさらなる性能向上が期待されています。 特に近年注目されているのが全固体電池です。 全固体電池は、リチウムイオンバッテリーと比べて安全性が高く、急速充電への適性が高いです。 その他、全固体ナトリウムイオン電池、負極にSiCを用いた電池、新しいセル構造によりエネルギー密度を高めた電池などが開発されています[13]。 また、充電時間の短縮のために充電器の高出力化も進められています[14]。 一方、長距離を走行するトラック用として、燃料電池があります[15]。 燃料電池は、水素を燃料として使用し、水素と酸素の反応により、発電する技術です。 また、航続距離の問題を解決する方法として走行中に給電を行う技術(Dynamic Wireless Power Transfer:DWPT)の開発も進められており、スーパーキャパシタの適用も考えられています[16]。 スーパーキャパシタは、高速充放電が可能なことが特長です。
3. 鉄道における蓄電池の活用および電力貯蔵
鉄道における蓄電池の活用および電力貯蔵については、質疑応答2024-0340 〔蓄電池を搭載した鉄道車両〕 および 質疑応答2024-0341 〔鉄道における電力貯蔵〕 にかなり詳しく説明していますのでご参照下さい。
Notes:
- レドックスフロー(Redox Flow Battery)とは?[10], [11] : 電気を蓄えるためのバッテリーの一種で、電解液を循環させて充電、放電するしくみの蓄電池のことです。電気を貯める物質の還元(reduction)と酸化(oxidation)、循環(flow)から、レドックスフロー電池(Redox Flow Battery、RFB)と呼ばれています。バナジウムなどのイオンの酸化還元反応を利用して充放電を行うので、構造上安全性が高く、長寿命、大容量化しやすく、また、長期的な電力貯蔵に適しています。一方、エネルギー密度が低いことやコストが課題となっていります。しかし、長時間の電力貯蔵ができることから、再生可能エネルギーの増加にともなって、近年注目を集めるようになってきています。
- メモリ効果とは? : 再充電可能なバッテリー、特にニッケルカドミウム(NiCd)バッテリーに見られる現象です。 この効果により、バッテリーの実際の容量が減少したかのように見えることがあります。 具体的には、バッテリーが完全に放電される前に部分的に充電されると、バッテリーは 「この容量までしか使われない」 と記憶してしまいます。 その結果、次回以降の使用時にバッテリーがその記憶した容量までしかエネルギーを供給しなくなり、実際にはもっと容量があるにもかかわらず、利用可能なエネルギーが減少するのです。 この現象を防ぐためには、定期的にバッテリーを完全に放電し、その後に完全に充電する 「フルサイクル充電」 を行うことが推奨されます。
参考文献:
[1] 日経エネルギーNext:「マーケット考察 産炭地も石炭火力廃止へ、豪州は調整力も系統増強も蓄電池が担う」 https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00007/00121/
[2] 日経エネルギーNext:「マーケット考察 安定供給の要を石炭火力から蓄電池へ、ハワイの選択」 https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00007/00120/
[3] メガソーラービジネス:「世界で急増する定置型蓄電池、系統増強よりも有利に、IRENA 調査」 https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/feature/00007/00129/?ST=msb
[4] メガソーラービジネス:「国内最大720MWhの定置型蓄電池が稼働、道内風力が倍増へ」 https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/03369/?ST=msb
[5] 日経クロステック:「国内で系統蓄電所が急増、テスラやCATLも参入」 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/09565/
[6] 日経クロステック:「活況の国内系統用蓄電池市場、3つの電力市場を駆使して稼ぐ」 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02421/071700050/
[7] 日経クロステック:「東南アジア初、49MWの浮体式ハイブリッド蓄電池が始動https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02443/050800050/
[8] リチウム硫黄電池が急速に台頭、自動車メーカーへのサンプル出荷も開始 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02705/052200021/
[9] 次世代蓄電池、再エネ普及で市場拡大、レドックスフローが有望 https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/04202/?ST=msb
[10] 産総研マガジン:レドックスフロー電池とは https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20240327.html
[11] 住友電工:レドックスフロー電池 https://sumitomoelectric.com/jp/products/redox
[12] 電池工業会:自動車用バッテリーの役割 https://www.baj.or.jp/battery/car/car01.html
[13] 日経クロステック:日本から“10分切り”の充電技術続々、大本命は全固体電池 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02935/110600009/
[14] 日経クロステック:東電系がCHAdeMOで350kWのEV急速充電器、10分で400km走行 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/24/00856/
[15] ヤマトホールディングス:日本初、燃料電池大型トラックの走行実証を開始 https://www.yamato-hd.co.jp/news/2023/newsrelease_20230517_1.html
[16] 日経クロステック:EVの走行中給電に現実味、盛り上がる開発に政府が導入指針策定へhttps://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02935/090200002/