一般の三相かご形誘導電動機を直入れ始動(全電圧始動)する場合とVFDドライブの加速について説明します。 先ず、電動機の始動時間計算について、質疑応答2021-0084~0088、0090 並びに 質疑応答2024-0323、0324 をご参照下さい。 特に、質疑応答2024-0324〔誘導電動機の始動計算の精度向上〕と 質疑応答2021-0090〔誘導電動機のダイナミックモデル〕にも注目して下さい。
1.慣性定数の大きな負荷を直入れ始動する際の注意事項(解析ツールを使用する場合)
慣性定数の大きな負荷を直入れ始動する際に注意すべき点を (1) 式の運動方程式から考察します。 J [kg・m2] は回転体の慣性モーメント、ω [rad/s] は回転数、Tm [N・m] は電動機が発生するトルク、Tl [N・m] は負荷機械のトルク(反抗トルク)です。
以下、注意すべき事項を 4点 説明します。 発電用大容量ボイラのFDF(押込み送風機、両吸込みターボファン)を直入れ始動する際には、始動時間は20~30秒を要する場合があります。 保護リレーとの協調等、留意すべき点は多いことをご理解下さい。
(1) 誘導電動機の等価回路適用と諸定数(Parameters)の入手
市販の解析ツールを使用して検討する場合は、等価回路を適切に選択する必要があります。 小容量機以外は深溝効果(すべりによって回転子(二次)定数が変化する特性)を無視することはできません。 よって、ETAPを使用する場合は、Single2(一重かご形深溝)、DBL1(二重かご形一体溝)、DBL2(二重かご形独立溝)の何れかを使用して下さい。 さらに、正確な等価回路定数を得ることが肝要ですが、参考文献[1] 等に計算方法が紹介されていますのでご参照下さい。 Single2は、ETAPのパラメータ推定(Parameter Estimation)機能より、電動機テストレポートから回転子拘束時(すべり1)と全負荷時の両者の定数を得て、これを使用するモデルです。 (関連資料2₋2 〔誘導電動機のパラメータ推定〕 (Page 15-39) 参照)
(2) 負荷機械と誘導電動機の慣性定数
負荷機械と電動機本体の慣性定数、また、必要によりギヤ(増速機、減速機)とカップリングの慣性定数を正しく把握する必要があります。 製作メーカーから情報を得ることが望ましいですが、不明な場合は精度を有する推定値を使用して下さい。 参考までに、過去に調査した結果を 表1に示します。 大きな慣性を持つターボ機械の単位慣性定数Hは5~6超程度であることが分ります。
(3) 負荷機械の始動時トルク特性の把握
負荷機械によって始動時のトルク特性(速度-トルク特性)は異なります。 また、ポンプ吐出弁、ファン等のベーン開閉状態によってトルク特性は変わります。 大容量設備ですと、吐出弁やベーンは必ず閉め切ってから電動機を始動しますが、小容量設備ですと必ずしもそのような運用を行わない場合がありますので留意下さい。 図1 に代表的な負荷機械における始動時トルク特性を示します。
(4) 電動機端子部の電圧降下
誘導電動機始動時は定格の数倍(機種によっては10倍超)の始動電流が流れ、線路インピーダンスにより電動機端子電圧は低下します。 誘導電動機の発生トルクは電圧の二乗に比例し始動時間に影響するので無視できません。 系統インピーダンスを正しく把握しツールに入力して下さい。
2.解析ツールを使用しない検討
解析ツールを使用しない場合の始動時間計算法について一例を紹介し、今までの記述と合わせて説明します。図2 は誘導電動機のL形等価回路(簡易等価回路)で、この回路から得られるトルク特性を (2)式 に示します。ωS は同期角速度、s はすべり(slip)、V は電動機端子の相電圧です。 なお、簡易等価回路は誤差を有しますが、誘導機の基本動作を理解するためには有用です。
先ず、表2の回転子回路定数が拘束時と全負荷時の場合のトルク特性を(2)式で比較し図4に示します。このように大きな差異が生じますが、1-(1)項で述べた事項の重要性がご理解いただけると思います。
実際の計算では、電動機回転子定数は、すべり1から0に向かう変化とともに 表2 の値が連続的に変化する演算を加えています。 慣性モーメントはH=6.0に相当する152[kg・m2] としました。 図6 の結果から始動時間は約13秒要していることがわかります。
ここで重要なことは、この計算では電動機の電圧降下が考慮されていないことです。 実際には、電圧降下は参考文献[3]等で求め、この数値を代入して計算することになります。
3.VFDドライブの加速時間
VFD駆動の場合は、電動機始動の際のパワーがインバータの能力を超過しない配慮が重要で、このことによって始動時間が左右されます。 国内メーカーが公表している技術資料の例として表3を示します[4]。
表3中の式、第1項は ω[rad/s]×TL [N・m] で負荷電力を表し、第2項は回転慣性(慣性モーメント) J [kg・m2] の加速に必要なパワー(ジュール÷時間 = ワット)を表しています。 VFD駆動の場合は、この TA (加速時間)設定値が始動時間を決めることになります。 例として V/F(Volt per hertz control)のインバータが6Hzから50Hzまで加速する際の状態を回路演算ソフトPSIMで計算してみました。 この結果を 図7 に示します。 なお、装置の仕様は 表4 によります。
加速時間が短いとインバータ入力電力は増加することがわかります。 なお、VFDは減速時間の設定も重要です。 回転体の自然減速よりも、さらに早く減速させたい場合は制動抵抗器等を装備する必要があります。 インバータ直流中間電圧の過電圧にはご注意下さい。
参考文献:
[1] 新版電気機械学、猪狩著、コロナ社(ISBN978-4-339-00733-6)
[2] TMEIC資料、高圧三相誘導電動機 -トップハットタイプ- 電動機活用マニュアル 電動機選定のための基礎編
[3] 工場配電第6版、OHM社(ISBN978-4-274-227790-0)、1.3電動機負荷を含む電圧降下の計算方法
[4] 安川電機、安川汎用インバータ技術資料(J-C-03-GN-01)
(旭化成株式会社 加戸良英)