アークフラッシュの検討は、① 短絡事故が生じた場合のアーク電流を求める(アーク電流が大きいと、事故エネルギーが大きくなる)② 事故除去時間(Fault Clearing Time:FCT)を求める(FCTが大きいと、事故エネルギーが大きくなる)③ 事故点からの距離を考慮して事故エネルギーを求める(事故点からの距離が大きくなれば事故エネルギーが縮小)という手順で進めます。 計算は、対数(log10)を含むだけの計算式でありそれ程難しい計算ではありません。 計算手法については、質問番号:2020-0016 『アークフラッシュ計算手法、規格、および便利なツール』をご参照下さい。
A. アークフラッシュ計算結果の評価方法
ただ、アークフラッシュ計算結果を評価する場合に厄介なのは …
- 系統運用や、短絡事故発生前の電圧分布等によって、短絡電流値が変わり、アーク電流値が変わる。
- 一般的に、アーク電流(Ia)が小さいと事故エネルギーも小さくなりますが、保護協調特性との関係からIaの値によって事故除去時間(FCT)が長くなり、Iaが小さい場合の方が事故エネルギーが大きくなることが有ります。
このため etap は、Ia が100%の場合と85%の場合の両方の事故エネルギーを計算し、厳しい結果となるIaの値で事故エネルギーを求めます。このように、安産性の観点から、系統運用や保護協調特性などの条件のパターンを考慮して、複数の条件での検討を行い、最も厳しい条件での事故エネルギーを求めることが必要です。 etap は、アークフラッシュアナライザー(Arc Flash Analyzer)という機能を持っており、複数の条件の基での事故エネルギー計算を行い、最も厳しい結果の事故エネルギーを選出します。そして、その事故エネルギーの値を基に ① 危険度の分類 ② 個人用防護具 (PPE) の適用 ③ 保護境界の距離を求め、アークフラッシュラベルの作成までを行います。
B. アークフラッシュ計算結果に対する対応策
次に、事故エネルギーの値が大きく、個人用防護具 (PPE) の許容範囲を超えている、生産現場では一般の作業員もいるので、個人用防護具 (PPE) 無しで機械や装置に近づくことのできるよう「危険度の分類を 0(事故エネルギーが1.2 cal / cm2以下)」にしたい、などの対応策について考えてみます。 人命に影響する問題ですので、下記の一般的な対応策を参考に、生産よりも人命優先で、慎重な検討が必要です。
- 最も安全な方法は、電源を切って作業することです。特高受電点などはこのようにせざるを得ないと思います。この方法は工場の運転方法を基に、工場の運転系列などを考慮して配電系統を計画することなどの方法が考えられます。
- 次に安全なのは、短絡電流値そのものを小さくことです。アークフラッシュ対策の観点からは、系統運用を見直して、短絡電流が大きくなるような系統運用を避けるような対策が考えられます。
- 保護協調を見直して、出来るだけ早く事故点を切り離すようにすることも有効です。事故除去時間(FCT)を早くすれば、事故エネルギーが小さくなります。
- 止むを得ない場合は、危険度の分類に適応した個人用防護具(PPE)を着用して作業することになります。変電所や電気室の中などで、電気屋さんだけが作業するエリアであればこの方法が可能です。 この場合、配電盤などの電気設備に、危険度の分類、事故エネルギー、保護境界などの値を記載した「アークフラッシュラベルの貼付け」が必要です。
- 生産現場などで一般の作業員もいるようなエリアでは、個人用防護具(PPE)無しで作業できるよう「危険度の分類を 0(事故エネルギーが2 cal / cm2以下)」にするような対応策が必要です。 このために、配電盤のフィーダ回路に瞬時動作の MCCB やヒューズを用いて、瞬時で事故点を分離すなどの対策が考えられます。
この回答でご不明の点がありましたら、追加質問等をお待ちしています。